ケルセチンと唐辛子の辛み成分カプサイシンとの組合せは、相乗的に血糖値を下げる
出典: Molecular Nutrition & Food Research 2023, 67, 2200577
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/mnfr.202200577
著者: Si Mi, Wenxuan Zhu, Xiangnan Zhang, Yuhang Wang, Tong Li, Xianghong Wang
概要: 唐辛子の摂取は、生活習慣病による死のリスクを下げることが知られています。唐辛子の主成分は、カプサイシンという辛味の本体ですが、ケルセチンとその仲間も多く含まれています。今回の研究では、唐辛子の健康への利点に着目して、カプサイシンとケルセチンとの組合せによる血糖値降下作用を、マウスを用いる動物実験で検証しました。
全部で60匹のマウスからランダムに10匹を選んで、正常群として比較対照にしました。残る50匹には高脂肪食を4週間与え続け、さらに脾毒性の化学物質を飲ませて糖尿病を誘発しました。この糖尿病マウスを10匹をづつ5グループに分けて以下の処置を行いました。1) 薬物投与なし、2) 糖尿病の標準治療薬であるメトホルミンを投与、3) カプサイシンのみ投与、4) ケルセチンのみ投与、5) カプサイシンとケルセチンとの組合せを投与。2)は既存薬を投与しますので、確実に効果があることが分かっています。2)は比較基準として成立するので、各データの2)との乖離度合が糖尿病に対する効果の指標となります。
4週間の投与期間が終了して、糖尿病の主症状である空腹時血糖値を比較ました。正常群の8 mmol/Lに対して1)では37 mmol/Lに上昇して、糖尿病の進行を如実に物語っています。2)は13 mmol/Lに下がり、メトホルミンは正常に近づけています。3)~5)のデータはそれぞれ、24, 31, 15 mmol/Lでした。従って、カプサイシンもケルセチンも単独では1)に比べれば空腹時血糖値が下がるものの、2)からは離れています。ところが両者を組合せた5)は2)に接近して、有効性がより強くなりました。次に、インスリンの血中濃度を比較しました。糖尿病は、血糖値もインスリン値も上昇するのが特徴です。すなわち、血糖値を下げる筈のインスリンが多く存在しながら、働かないために血糖値が上昇してしまうのが糖尿病です。インスリン値は、正常群の9.5 mIU/Lに対して1)では12.5 mIU/Lへの上昇が見られました。2)~5)においては、10.0, 11.5, 11.0, 10.0 mIU/Lの各数値を観測しました。注目すべきことに、組合せの5)は2)と同じ値で、既存薬のメトホルミンと同等の効果が見られ、ほぼ正常値に回復したことを意味します。
組合せの効果の本質に迫るべく、肝臓に存在するG6Pという酵素に着目しました。ブドウ糖を栄養源として血液から各組織に取込まれると、直ちに別の形に変化します。G6Pとは元のブドウ糖に戻す酵素ですので、糖尿病では活性化します。その結果、取込まれた筈のブドウ糖が再び血中に帰ってしまい、血糖値の上昇を招きます。正常値を1とした活性の相対比は1)~5)で、3.2, 1.3, 1.7, 2.2, 1.1でした。驚くことに、組合せはメトホルミンを凌駕する結果となりました。
唐辛子は生活習慣病のリスクを下げると冒頭で述べましたが、今回の結果で証拠が強化されました。
キーワード: 唐辛子、カプサイシン、ケルセチン、メトホルミン、糖尿病、血糖値、インスリン