ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

アテローム性動脈硬化症にケルセチンが効く仕組み・その2

出典: International Immunopharmacology 2023, 116, 109842

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1567576923001650?via%3Dihub

著者: Wenying Zhou, Feng Wang, Xuesong Qian, Shuai Luo, Zhimei Wang, Xiaofei Gao, Xiangquan Kong, Junjie Zhang, Shaoliang Chen

概要: アテローム性動脈硬化症とは、血管の内側すなわち血流と接する部分に塊が生じ、動脈が弾力性を失う病気です。塊の正体は脂肪やコレステロールで、高脂肪食・運動不足・喫煙が原因の典型的な生活習慣病です。アテローム性動脈硬化症が重症化すると、心筋梗塞や脳梗塞の原因となり、死に至ります。ケルセチンがアテローム性動脈硬化症の進行を抑制することは既に知られていますが(https://health.alps-pharm.co.jp/topics/3261/)、今回の研究では、別の角度から有効性が検証されました。

アテローム性動脈硬化症の原因の一つである、血流の不規則な乱れによる血管の炎症に着目して、血管の内側を構成する血管内皮細胞を乱流に晒しました。せん断応力(ずらす内力)を掛けながら細胞を培養して、血管内皮細胞が乱れた血流のストレスを受けている状態を再現しました。この乱流に晒される時間が長くなるにつれ、細胞内にはニューロピリン2という蛋白質が増えました。それも時間の経過に応じて、右肩上がりに増加しました。また、血管細胞接着分子1という蛋白質もニューロピリン2と同様の挙動を示し、時間の経過に応じて上昇しました。この血管細胞接着分子1は炎症のバロメーターですので、乱流に晒される時間が長い程、炎症が進行することを意味します。

次に、遺伝子操作でニューロピリン2が発現しなくなった血管内皮細胞を用意して、同様の実験を行いました。乱流に晒してもニューロピリン2が増えないのは当然ながら、血管細胞接着分子1も増えませんでした。従って、ニューロピリン2が働かなければ、乱流下の血管内皮細胞に炎症は起きません。同様の現象が、マウスの体内でも確認できました。マウスの左側の頚動脈を糸で縛り、右側は縛らずに2週間放置しました。超音波検査の結果、縛った左側の血流は乱れ、ニューロピリン2と血管細胞接着分子1が上昇していました。一方、縛らない右側では血流が正常で、両蛋白質とも増えません。さらに、ニューロピリン2に結合してその働きを抑えるRNAを尾に注射したマウスでは、左側の血流は乱れながらも、問題の2つの蛋白質は増えず、細胞実験と同様の結果が得られました。

次に、ケルセチンの効果を調べました。細胞実験は、ニューロピリン2を発現させない遺伝子操作の代わりに5 μMのケルセチンを作用させました。動物実験は、ニューロピリン2を働かなくするRNAの代わりに100 mg/kgのケルセチンを注射しました。乱流もしくは血流の乱れにもかかわらず、ニューロピリン2も血管細胞接着分子1も上昇することなく、ケルセチンによる炎症の抑制が細胞とマウスの両方で示されました。

以上の結果は、ケルセチンがニューロピリン2を阻害して炎症を抑えた結果、アテローム性動脈硬化症に効果を示したことを示唆しています。

キーワード: アテローム性動脈硬化症、血管内皮細胞、乱流、ニューロピリン2、血管細胞接着分子1、ケルセチン