ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンはマウスの膣カンジダ症を予防する

出典: Phytomedicine 2023, 114, 154800

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0944711323001617

著者: Yujun Tan, Qian Lin, Jingchun Yao, Guimin Zhang, Xue Peng, Jun Tian

 

概要: 膣カンジダ症とは、女性器の膣でカンジダ菌が増殖して、おりものや痒みの症状を伴います。カンジダ菌はカビの一種ですが、健康な人の膣にも常に存在しており、疲れやストレスで抵抗力が低下すると膣カンジダ症が見られます。従って、女性の5人に1人が経験すると言われる程、非常に多い病気です。今回の研究では、ケルセチンが膣カンジダ症を予防することが、マウスを用いる動物実験で示されました。

マウスの膣にカンジダ菌を注射して、膣カンジダ症を誘発した際の、ケルセチン投与の時期を比較しました。1) ケルセチン25 mg/kgを飲ませ、2日後にカンジダ菌に感染、2) ケルセチン投与とカンジダ菌感染を同時に行う、3) 感染2日後にケルセチン投与、の3パータンを比較します。これとは別に、4) カンジダ菌に感染させない正常マウス、5) カンジダ菌に感染させ、ケルセチンを飲ませない病態マウスも、比較用に用意しました。膣組織を比較すると、5)が4)より炎症が進行していたのは、ある意味当然でした。面白いことに、1)と2)は4)と同レベル、3)は5)と同レベルでした。ケルセチンを感染時より前に投与するか、もしくは感染と同時に投与すれば、膣カンジダ症は予防できました。しかし、感染した後にケルセチンを飲んでも手遅れで、飲まない場合と同程度の炎症が起こりました。言い換えれば、ケルセチンには予防効果はあっても、治療効果がないことを意味します。

この不思議な現象を解明すべく、次の実験を行いました。先程の実験では、カンジダ菌そのものをマウスに注射しましたが、今度はカンジダ菌の培養液の上澄み液を注射します。ケルセチンの働きを明らかにすべく、注射する上澄み液を調製する際に、培養液へのケルセチン添加の有無を比較します。マウスの条件として、A)  上澄み液を注射しない正常マウス、B) ケルセチンを添加しない上澄み液を注射しその後のケルセチン投与なし、C) ケルセチンを添加しない上澄み液を注射し、2日後にケルセチンを飲ませる、D) ケルセチンを添加した上澄み液を注射しその後のケルセチン投与なし、の4通りを比較しました。炎症が進行したのはB)とC)、炎症が見られなかったのがA)とD)でした。

上澄み液にもカンジダ菌が存在するので、第1の実験と第2の実験とではカンジダ菌の濃度の違いはありますが、感染した事実は変わりません。ゆえに、第1の5)と第2のB)とは本質的に同じことをしており、両方とも炎症が進行したのは当然です。第1の3)と第2のC)にも同じことが当てはまり、感染後のケルセチンの投与が無効であることの再現です。しかしB)とD)とを比べると、B)は病原性カンジダ菌に感染し、感染してもD)では非病原性だった事を示しています。すなわち、ケルセチンの存在下で培養したカンジダ菌は、非病原性に不活性化されることが分かりました。

これで、ケルセチンの働きが理解できました。ケルセチンが存在する場所にカンジダ菌が感染しても、非病原性に不活性化され、炎症は予防できます。しかし、病原性のカンジダ菌が誘発した炎症を回復する治療効果は、ケルセチンにはありませんでした。

キーワード: 膣カンジダ症、カンジダ菌、ケルセチン、炎症、予防効果、非病原性、不活性化