ケルセチンはジカウィルスの増殖を阻害する
出典: International Journal of Molecular Sciences 2023, 24, 7504
https://www.mdpi.com/1422-0067/24/8/7504
著者: Marielena Vogel Saivish, Gabriela de Lima Menezes, Roosevelt Alves da Silva, Marina Alves Fontoura, Jacqueline Farinha Shimizu, Gislaine Celestino Dutra da Silva, Igor da Silva Teixeira, Natalia Franco Bueno Mistrão, Victor Miranda Hernandes, Paula Rahal, Lívia Sacchetto, Carolina Colombelli Pacca, Rafael Elias Marques, Maurício Lacerda Nogueira
概要: ジカウィルスに感染すると、発熱・発疹・筋肉痛・倦怠感の諸症状が現れます。1週間ほどで症状は消え、予後は比較的良好とされていますが、免疫力が低下していると死に至るケースも稀に見られます。また、母体から胎児への感染により、先天性の障害を招くことも知られています。残念ながら、有効なワクチンや治療薬がないのが現状です。ジカウィルスは蚊を介して感染するので、流行地域では皮膚を露出せず、虫よけを併用して対応するしかありません。妊娠している方、可能性のある方は、流行地域には渡航しないよう呼びかけています。今回の研究では、ケルセチンがジカウィルスの増殖を阻害することが示され、人類全体への朗報となりました。
実験は、ベロ細胞というサルの腎臓から分離した細胞を用いて行われました。ジカウィルスに限らずウィルスは、自力で子孫を残すことが出来ません。宿主細胞と呼ばれる細胞に感染して、すなわち細胞にウィルスが侵入し、その細胞が有する複製機能を使って初めてウィルスは増殖できます。従って、ベロ細胞を宿主細胞とする人工的なジカウィルスの増殖にて、ケルセチンの阻害効果を調べました。
ジカウィルスに感染したベロ細胞にケルセチンを作用しますが、ケルセチンを投入する時期を4通り比較します。1) 感染の1時間前にケルセチンを投入、2) 感染の2時間前にケルセチンを投入、3) 感染と同時にケルセチンを投入、4) 感染の1時間後にケルセチンを投入のそれぞれの方法を行い、感染から48時間経過した際の、ベロ細胞に存在するジカウィルスの量を測定しました。ケルセチンを作用しない時のジカウィルスの量を基準として、その半分の量に減らしたケルセチンの濃度を求めました。その結果、1)は11.9 μM、2)は148.6 μM、3)は28.7 μM、4)は28.8 μMというデータとなりました。2)だけが一桁大きな濃度となりましたが、濃度が濃い程、多くのケルセチンを要しますので、効きが悪いことを意味します。従って、ケルセチンを投入するタイミングは、感染の1時間前が最も効率が良く、同時投入と1時間後では効率が半分に低下し、2時間前では効率が約1/10に低下したことを意味します。
次に、125 μMに固定した濃度で先程の1)~4)の条件でケルセチンを投入し、24時間後の培養液の上澄みに存在するジカウィルスの量を調べました。宿主細胞を使って増殖したウィルスは宿主細胞の外に出ますので、上澄み中のジカウィルスは、始めに感染したウィルスの子孫と見なせます。ケルセチン無作用時の量を基準とする減少率は、1)で96.5%、2)で0%、3)で43.2%、4)で33.9%であり、子孫ウィルスの産出阻害にも、投入時期の効果に同様の傾向が見られました。
以上、ケルセチンはジカウィルスの増殖を強力に阻害しますが、投入のタイミングで変動しました。
キーワード: ケルセチン、ジカウィルス、ベロ細胞、宿主細胞、増殖