糖尿病の合併症としての歯周病にて、ケルセチンは炎症を抑制する
出典: Journal of Dental Sciences 2024, 19, 268-275
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1991790223001101
著者: Chao-Yen Huang, Min Yee Ng, Taichen Lin, Yi-Wen Liao, Wei-Shiuan Huang, Chang-Wei Hsieh, Cheng-Chia Yu, Chun-Jung Chen
概要: 食事で摂取したでんぷんは消化されて糖に変わりますが、その糖は腸で吸収された後、血液で全身に運ばれて栄養源になります。糖尿病にかかると、糖は栄養源として使われずに血中に残ります。血液に残った糖は尿と一緒に排出され、糖を含む尿ゆえに糖尿病と呼ばれます。糖尿病における過剰の糖は、終末糖化産物という老化や病気の原因物質を盛んに作ります。この終末糖化産物が血液で運ばれると全身に悪さをしますが、歯も例外ではなく歯周病をしばしば併発します。今回の研究では、糖尿病に伴う歯周病に特徴的な炎症を、ケルセチンが抑制することが実証されました。
歯茎を構成する歯肉線維芽細胞を終末糖化産物で刺激して、糖尿病の併発症としての歯周病を細胞で再現しました。血液が歯茎(別名: 歯肉)組織に運んできた終末糖化産物によって、歯肉線維芽細胞が損傷して歯周病になった状態です。細胞内には、インターロイキンという炎症誘導物質が増えることが確認できました。これこそ糖尿病の併発症の特徴で、糖尿病でない人の歯周病では、インターロイキンが上昇しないことが分かっています。
終末糖化産物を加える前の歯肉線維芽細胞では、インターロイキンの濃度が400 pg/mLでした。しかし、終末糖化産物の刺激で1500 pg/mLにまで上昇して炎症を誘発しました。ここへ5~20 μMの範囲の濃度で、ケルセチンを添加しました。5 μMのケルセチンにて、インターロイキンの濃度が1100 pg/mLに下がりました。同じように10 μMのケルセチンでは800 pg/mL、20 μMでは500 pg/mLと、濃度を上げるに従ってインターロイキン濃度が減少する、濃度依存性を認めました。一般に濃度依存性があると、他の仲介物がなく、直接的な関与と言われています。従って、ケルセチンはインターロイキンの発現を直接抑制したことになり、糖尿病が誘発する歯周病の炎症を直接抑制したことを意味します。
これとは別に、歯肉線維芽細胞を用いて傷の修復をシミュレーションする実験も行いました。細胞の集団の一部を削り取って、創傷状態を形成しました。48時間後には、削られた空白地帯へ周囲から細胞が集まり、傷口の修復が細胞レベルで観察されました。しかし、終末糖化産物で刺激した歯肉線維芽細胞では、48時間経過しても空白地帯のままでした。これは傷口が修復されないことを意味し、歯槽膿漏で出血が止まらない場合と一緒の現象です。しかし、終末糖化産物の後にケルセチンを加えると、修復が見られました。10 μMのケルセチン濃度では正常近くまで修復され、5 μMでは半分程度の集まりでした。従って、ここでも濃度依存性が示されました。
キーワード: 糖尿病、歯周病、歯肉線維芽細胞、終末糖化産物、インターロイキン、ケルセチン