ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)と、イソケルセチンによる胆汁酸合成の促進

出典: Journal of Agricultural and Food Chemistry 2023, 71, 7723–7733

https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.jafc.3c00952

著者: Ce Zhang, Zunji Shi, Hehua Lei, Fang Wu, Chuan Chen, Zheng Cao, Yuchen Song, Cui Zhang, Jinlin Zhou, Yujing Lu, Limin Zhang

 

概要: 肝臓に脂肪が蓄積した状態を「脂肪肝」と呼びますが、お酒を飲み過ぎた結果と、お酒を飲まなくともなる場合の二通りあります。後者は非アルコール性脂肪肝疾患(以下、NAFLD)と言われ、肥満・高血圧・糖尿病がしばしば伴います。今回の研究では、ケルセチンに糖が1個結合したイソケルセチンがマウスのNAFLDを改善し、その仕組みも解明されました。

マウスを3つのグループに分け、違う餌で15週間飼育しました。1) 通常の餌、2) 脂肪分60%の高脂肪食、3) 同じ高脂肪食にイソケルセチンを0.5%添加の、3群を比較します。15週間後の肝臓中の中性脂肪濃度は、1)が10 μmol/L、2)が18 μmol/Lでした。高脂肪食の肝臓は、通常の餌と比べて大幅に脂肪がたまり、人間で脂肪分の多い食生活がNAFLDを招くのと一緒です。しかし、3)では丁度中間の14 μmol/Lでした。高脂肪食なので中性脂肪は増加しますが、イソケルセチンを添加すれば、最小限に抑えられたことが分かります。また、肝臓中のコレステロール濃度は、1)と2)が22 μmol/L、3)が17 μmol/Lでした。コレステロールは高脂肪食で上昇しませんが、イソケルセチンで減少したのが興味深い現象です。

次に、肝臓で起きた遺伝子の変化を調べました。顕著な変化が見られたのは、Cyp27a1・Cyp7b1・Bsep・Mrp2の4種類で、いずれも1)と比べて2)で発現が低下したのを3)が改善しました。2番目のCyp7b1を例を挙げると、3)における発現量を1.0とした時の相対値は、1)で1.2、2)で0.6でした。ちなみに、始めのCyp27a1とCyp7b1は肝臓における胆汁酸の合成を担い、後のBsepとMrp2は作られた胆汁酸を肝臓から腸に輸送する働きを担う遺伝子です。なお、胆汁酸が作られる臓器は肝臓のみで、肝臓から輸送されて初めて腸を始めとする他の器官で利用できます。

これらの結果は、高脂肪食でNAFLDが発症すると、肝臓における胆汁酸の合成が低下するだけでなく、胆汁酸の腸への輸送までが不活性化することを意味します。しかし、イソケルセチンを同時に摂ることで歯止めが掛かりました。NAFLDがもたらした二つの機能の低下、すなわち、胆汁酸の合成と腸への輸送は両方とも、イソケルセチンが回復したことになります。実際、胆汁酸の挙動を調べると、肝臓でも腸でも1)に比べて2)で低減し、3)で改善効果が見られました。しかし、肝臓よりも腸方がより胆汁酸が増大しており、イソケルセチンによる腸への輸送の活性化が効いています。

胆汁酸の合成促進によるNAFLDの改善は、別の話題でも述べましたが(参照)、全く別のアプローチから同一の結論を導いた点が興味深いところです。

キーワード: NAFLD、イソケルセチン、肝臓、中性脂肪、胆汁酸