ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

大量のアベルメクチンがコイに誘発した脾毒性は、ケルセチンが改善する

出典: Pesticide Biochemistry and Physiology 2023, 193, 105445

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0048357523001104

著者: Enzhuang Pan, Huizhen Chen, Xinyu Wu, Nana He, Jiajie Gan, Huimiao Feng, Yong Sun, Jingquan Dong

 

概要: アベルメクチンは、動物の寄生虫駆除薬や農作物を害虫から守る農薬として、年間約5000トンの消費量があります。野外で大量に使用されているため、雨によって水性環境に入った際の生態系への影響が懸念されています。今回の研究では、水性の生態系への影響として、コイを用いた実験を行いました。大量のアベルメクチンに暴露したコイの脾臓に毒性が見られたこと、またその脾毒性はケルセチンが軽減したことが実証されました。

コイを4つのグループに分けて、以下の条件で30日間飼育しました。1) 通常の水および餌、2) アベルメクチンを含む水(濃度: 2.4 μg/L)と通常の餌、3) 通常の水とケルセチンを含む餌(含量: 400mg/kg)、4) アベルメクチンを含む水(濃度: 2.4 μg/L)とケルセチンを含む餌(含量: 400mg/kg)。なお、アベルメクチン濃度の2.4 μg/Lですが、アベルメクチンの半数致死量の1/10として設定しました。すなわち、その10倍である24 μg/Lの濃度に96時間コイを暴露すると、その半数が死亡することが分かっています。

30日後の脾臓組織を調べると、1)や3)に比べると、2)において構造の緩みと炎症が顕著でした。また、4)は1)や3)に近く、大量(半数致死量の1/10)のアベルメクチンに暴露すると脾毒性を誘発しますが、ケルセチンを同時に摂ると脾毒性が軽減することが分かりました。ちなみに脾臓とは免疫機能を担うB細胞やT細胞を作る臓器ですので、脾毒性は免疫毒性と読み替えることも可能です。

脾毒性の本質を探るべく、各組織に起きた遺伝子の変化を調べました。1)と3)に比べて2)では炎症誘導物質を産出する遺伝子が極端に増え、抗炎症物質の遺伝子は低下しました。しかし、4)は両方とも1)や3)に近づいており、先程述べた炎症の軽減と良好に一致しています。そこでiNOSという炎症誘導物質が誘導する、炎症の仲介物質の量を調べました。1)を1とした時の相対値は2)が20、3)が2.5、4)が10でした。

アベルメクチンの脾毒性の要因には、炎症に加えて、活性酸素種も挙げられます。活性酸素種とは、空気中の酸素がより反応性の高い状態に変化したもので、体内の組織を損傷する厄介な物質です。1)~4)の中で、脾臓組織に活性酸素種が蓄積したケースは2)のみでした。従って、アベルメクチンに暴露すると、コイの脾臓には活性酸素種が蓄積しますが、ケルセチンを摂ると蓄積しないことが分かります。この結果は、ケルセチンが活性酸素種を除去したことを意味し、炎症の抑制と並ぶ、ケルセチンによる脾毒性の軽減における二大要素の一つです。

キーワード: アベルメクチン、コイ、脾毒性、ケルセチン、炎症、活性酸素種