種をルチン処置したトマトは、害虫抵抗性が強化される
出典: Pesticide Biochemistry and Physiology 2023, 194, 105470
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0048357523001359
著者: Juan Tang, Haowei Shen, Rong Zhang, Fengbo Yang, Jinyu Hu, Jinting Che, Hongyan Dai, Hong Tong, Qingjun Wu, Youjun Zhang, Qi Su
概要: シルバーリーフコナジラミはカメムシ目に属し、トマトを中心とする広い範囲の農作物に寄生します。植物体の構造を維持して養分を貯蔵する師部を食べ尽くす上、植物ウィルスを媒介するため、シルバーリーフコナジラミは厄介な害虫として知られています。今回の研究では、ケルセチンに糖が2個結合したルチンが、トマトのシルバーリーフコナジラミに対する抵抗性を強くすることが示されました。
トマトの種を1~20 mMの濃度のルチン溶液に12時間漬けた後、発芽させ、苗を栽培しました。また、水に12時間漬けた種から発育したトマトを、ルチン処置をしていない比較対照としました。苗の発育にはルチンの影響はなく、ルチン処置の有無や濃度とは関係なく、高さや根の長さは同等でした。それぞれの植物体にメスのシルバーリーフコナジラミ成虫を寄生させました。ルチン処置なしのトマトに産んだ卵の数は平均27個、ルチン処置したトマトでは濃度に関係なく18個で、顕著な差が見られました。また、この卵から4齢の幼虫まで育った割合は、ルチン処置なしが76%、ルチン濃度1 mMが58%、5 mMが41%、10 mMが40%、20 mMが40%であり、幼虫の発育にも影響を及ぼすことが分かりました。ただし、5 mMより高い濃度では4齢幼虫までの発育率が頭打ちになりました。そこで以降の実験は、ルチン処置なしとルチン濃度1 mMの植物体の比較に限定しました。それぞれに成虫を寄生させ、植物体を食べている時間と、止まっていても食べていない時間を計測しました。面白いことに、食べていない時間は、ルチン処置なしの110分に対して、ルチン処置した植物体では170分に増えました。一方、食べている時間は、ルチン処置なしが190分、ルチン処置ありが125分と逆転が見られました。
ルチン処置はトマトにどのような影響を与えているのか、それぞれの遺伝子の発現の違いを比較しました。トマトに限らず、植物が環境ストレスから身を守るために分泌するジャスモン酸という物質があります。ジャスモン酸が関連するトマトの防御遺伝子を調べました。その結果、全部で4種類の内、2種類の防御遺伝子が、ルチン処置によって発現が大幅に上昇していました。
トマトの実には、ルチンが多く含まれています。日照りや塩分や有害物質から身を守るために、トマトはルチンを作り、ルチンの摂取が健康に有益な理由でもあります。身を守る対象には、害虫、特にシルバーリーフコナジラミも含まれていたことを示した研究でした。
キーワード: トマト、種、ルチン、シルバーリーフコナジラミ、ジャスモン酸、防御遺伝子