インドの伝統療法に基づく尿路結石症の新しい治療法
出典: Biomedical and Pharmacology Journal 2023, 16, 847-862
著者: Shilpika Nagula, N. J. P. Subhashini, D. V. Bhikshapathi, Palanati Mamatha, Sailaja Rao
概要: 尿路結石症とは、腎臓で作られた尿の通り道である尿管・膀胱・尿道に石ができる病気です。石とは奇妙に思えますが、尿に含まれるシュウ酸カルシウムが結晶として尿路に結石することを意味します。尿路結石症は、腰から背中にかけて激しい痛みがあり、しばしば血尿を伴います。生活習慣病が主な原因ですが、内服薬や外気温を含めた複合要因が指摘されています。今回の研究では、尿路結石症の中心となる結石の要因物質を、ケルセチンが効果的に取り除きました。
アエルバ・ラナタという薬用植物はヒガンバナ科に属し、インドの全域に自生しています。インドの伝統医療でアエルバ・ラナタは、頭痛や感染症に加えて、尿路結石症の治療にも用いられています。アエルバ・ラナタの主成分がケルセチンであることに着目して、ケルセチンの尿路結石症に対する有効性を検証した研究です。
まず、エチレングリコールという化学物質をラットに投与して、尿路結石症に特有の症状を誘発しました。結石の80%はシュウ酸カルシウムで20%がリン酸カルシウムと言われていますが、エチレングリコールはラットの尿に、要因物質であるシュウ酸イオン・リン酸イオン・カルシウムイオンの上昇をもたらしました。正常ラットの尿中のシュウ酸イオン濃度は1.80 ppmでしたが、エチレングリコールによって4.96 ppmまで上昇しました。しかし、エチレングリコールと同時にケルセチンを2 mg/kg投与したラットでは、2.35 ppmに下がりました。また、尿の全体量が減少すると成分が凝縮されるため、結石がより生じ易くなります。従って、尿の減少も尿路結石症の危険因子になりますが、正常群が11.3 mL、エチレングリコール群が3.16 mL、ケルセチン群が9.00 mLという尿の量も、ケルセチンによる改善効果を示しています。
次に、ケルセチンの効果を更に高めるため、他の物質と組合せた投与が検討されました。ケルセチンの吸収を向上させるべく、黒胡椒の辛味成分であるピペリンという天然物に着目しました。ピペリンは多くの薬剤の添加物として実用化されており、腸における薬物の吸収を助ける働きがあります。先程のラットの実験にて、ケルセチン2 mg/kg投与する所をケルセチン2 mg/kgとピペリン10 mg/kgとの組合せに変え、他の条件は変えずに実験を行いました。その結果、シュウ酸イオン濃度は2.05 ppm、尿の量は9.50 mLとより正常に近づきました。
以上、ケルセチンは尿路結石症の主原因を除去して、インドの伝統医療の有効性を裏付けるデータが得られました。さらに推し進めて、ピペリンとの組合せがケルセチンの効果を更に改良しました。
キーワード: 尿路結石症、シュウ酸カルシウム、シュウ酸イオン、ケルセチン、ピペリン