線虫の延命効果における、天然型ケルセチンと酸化型ケルセチンとの違い
出典: Comparative Biochemistry and Physiology Part C: Toxicology & Pharmacology 2023, 271, 109676
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S153204562300131X
著者: Jiao Li, Jiani Wang, Ziqian Huang, Xiaodong Cui, Chen Li
概要: ケルセチンが健康に良い理由の一つに、活性酸素種を除去する働きが挙げられます。活性酸素種とは空気中の酸素がより反応性の高い状態に変化した物質で、体内の組織を損傷し、老化の原因物質の典型例です。活性酸素種を除去する際には、ケルセチン自身が酸化されますが、酸化された形がどのような性質を示すのかは不明な点が多いのが現状です。今回の研究では、酸化型ケルセチンと、酸化される前の天然型ケルセチンとの違いが、延命効果を中心に検証されました。
実験は、C. elegansという線虫を用いて行われました。この線虫は大量に入手でき、個体差が少ないのが特徴で、生物実験に汎用されています。L4期の幼虫を30匹ずつ3群に分け、1) 天然型ケルセチンを含む(濃度: 25 μM)培地、2) 酸化型ケルセチンを含む(同濃度)培地、3) ケルセチンを含まない培地のそれぞれで飼育しました。生存日数の平均は、1)が12.063日、2) が12.794日、3) が9.974日でした。ケルセチン無添加時の3)と比べると、天然型も酸化型も両方とも、延命効果を認めました。天然型の延長は20.9%で、酸化型は28.3%ゆえ、酸化型の方がより優れた延命効果と言えます。生存日数が9.9~12.7日でしたので、4日目は若年期、8日目は老年期と見なせます(このように短期間で若年期と老年期を区別できる点も、線虫を使う理由です)。4日目における、30秒間あたりの喉を動かす回数を調べたところ、115回で1)~3)に違いがありませんでした。これが8日目になると、1)が110回、2) が115回、3) が95回となり、顕著な違いが現れました。8日目という同年齢で比較した、喉を動かす回数の違いは、生存日数の長さと良好に一致していました。
一般に、延命効果とストレス耐性は深い関係にあると言われています。そこで、酸化ストレスと熱ストレスを与えた際の、天然型および酸化型ケルセチンの影響を調べました。酸化ストレスの影響は、飼育培地に、線虫の体内に活性酸素種を誘導する化学物質を添加して、それ以外は先程と同じ条件で実験しました。また、熱ストレスの影響は、37℃で飼育する以外は先程と同じ条件で行いました。活性酸素種を誘導する酸化ストレス下で飼育すると、生存日数の平均は、1)が5.143日、2) が3.750日、3) が3.391日でした。一方、37℃の熱ストレス下で飼育すると、生存日数の平均は、1)が5.967日、2) が8.567日、3) が4.733日でした。酸化ストレスに対しては、酸化型ケルセチンの影響はありませんでしたが、天然型は耐性を高め、生存日数を51.7%延長しました。また、熱ストレスに対しては、両者とも耐性を向上しましたが、生存日数の延長は天然型が26.1%、酸化型は81.0%でした。
天然型ケルセチンは線虫の酸化ストレス耐性を高め、酸化型ケルセチンは熱ストレス耐性を向上し、それぞれ違う役割を担いました。酸化型の81.0%という群を抜いた数値が効いて、総合的には、酸化型のより優れた延命効果につながりました。
キーワード: ケルセチン、天然型、酸化型、線虫、延命効果、酸化ストレス、熱ストレス