イソケルセチンは間葉系幹細胞の骨細胞への分化を促進して、骨粗鬆症を改善する
出典: Natural Products and Bioprospecting 2023, 13, 20
https://link.springer.com/article/10.1007/s13659-023-00383-2
著者: Mengjing Wu, Mengyu Qin, Xian Wang
概要: 通常の細胞は細胞分裂で自己増殖のみ行われますが、幹細胞とは、他の細胞に変化できる性質を有しています。間葉系幹細胞(以下、MSC)は、骨・心筋・腱・脂肪・神経・皮膚の各細胞に変化できる、一種の万能細胞です。今回の研究では、MSCが骨細胞に変化(以下、分化)する過程を、イソケルセチンが促進することが実証されました。さらにその応用として、イソケルセチンが骨粗鬆症に有効であることが、マウスを用いる実験で示されました。なお、イソケルセチンとは、ケルセチンに糖が1個結合した構造です。
イソケルセチンの存在下でMSCを2週間培養して、その後の状態を調べたところ、骨細胞への分化の特徴が見られました。骨細胞への分化を担うRunx2という蛋白質がありますが、このRunx2を作らせる遺伝子に着目しました。イソケルセチンを添加しないで培養した時のRunx2遺伝子の発現量を1.0とすると、0.1 μMのイソケルセチン濃度では1.3、1.0 μM濃度で1.8、10 μM濃度で1.5と顕著に発現が増えました。2週間の培養期間で、MSCが骨細胞へ分化するために必要なRunx2を作らせるようにイソケルセチンが仕向けています。また、オステオカルシンという骨を構成する蛋白質がありますが、オステオカルシンを作らせる遺伝子の発現も、ケルセチンが促進していました。
以上の実験結果は、イソケルセチンを骨粗鬆症の治療に応用できる可能性を示唆しています。骨組織では新しい骨が作られ(骨形成)古い骨が壊される(骨吸収)ことが繰り返されていますが、骨粗鬆症ではそのバランスが崩れ、骨吸収のみが活性化しています。そこで、MSCの骨細胞へ分化を促進するイソケルセチンを摂れば、不活性化した骨形成を盛んにして、骨粗鬆症が改善できると予想しました。
骨粗鬆症の主原因は女性ホルモンの不足です。閉経後の女性に骨粗鬆症が多いのは、急速に女性ホルモンが減少するためです。そこで、閉経後の女性ホルモン不足をシミュレーションすべく、マウスの卵巣を摘出しました。卵巣摘出手術の2週間前から8週間後の計10週間における、イソケルセチン投与の有無を比較しました。すなわち、0.2%のイソケルセチンを含む餌と、イソケルセチンを含まない餌でそれぞれ飼育しました。投与期間が終了した後に、骨の内部組織を調べ、骨梁(こつりょう)という組織を比較しました。骨梁は、文字通り建物の梁(はり)のように、内側から骨を支える働きをしますが、イソケルセチン群は無投与群と比べて骨梁が大幅に増え、骨粗鬆症の改善を端的に示しました。また、先程のMSCの実験と関連しますが、イソケルセチン群ではオステオカルシン陽性の骨細胞が増えました。
従って、マウスで見られたイソケルセチンによる骨粗鬆症の治療効果は、MSCの骨細胞への分化の促進に基づいていることを示唆しています。
キーワード: イソケルセチン、間葉系幹細胞、骨細胞、分化、Runx2、オステオカルシン、骨粗鬆症