ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンとオキサリプラチンとを組合せて、結腸直腸癌に対抗する

出典: Foods 2023, 12, 1733

https://www.mdpi.com/2304-8158/12/8/1733

著者: Jinkyung Lee, Chan Ho Jang, Yoonsu Kim, Jisun Oh, Jong-Sang Kim

 

概要: オキサリプラチンという、結腸直腸癌の薬があります。手術が不可能な場合や、手術しても再発した場合に用いられます。日本で承認されたのは2005年ですので、20年近く結腸直腸癌の患者さんのために貢献して来ました。今回の研究では、オキサリプラチンとケルセチンとを組合せると、オキサリプラチンの単独使用時と比べて結腸直腸癌に対する有効性が高まることが実証されました。

最初の実験は、患者さんの腫瘍組織から分離したHCT116という結腸直腸癌細胞を用いて行われました。HCT116に0.125 μMの濃度でオキサリプラチンを作用すると、その生存率は80%になりました。20%の癌細胞がオキサリプラチンで死滅したことを意味します。ここにケルセチンを25 μMの濃度で追加投与すると、生存率は50%にまで下がりました。また、オキサリプラチン濃度を2倍の0.25 μMにするとHCT116の生存率は70%でしたが、ケルセチン25 μMの追加で40%になりました。ちなみに、同じ濃度のケルセチン単独作用では抗癌活性は全くなく、生存率は100%でした。

ケルセチンによるオキサリプラチンの増強効果を細胞レベルで確認できたので、次にHCT116を移植したマウスを用いて実験しました。移植により80 mm3の腫瘍組織ができたことを確認し、1) 薬物投与なし、2) ケルセチン50 mg/kgの単独投与、3) オキサリプラチン10 mg/kgの単独投与、4) ケルセチン50 mg/kgとオキサリプラチン10 mg/kgとの組合せ投与の4グループに分けました。週に3回の薬物投与を3週間行った後、各グループの腫瘍組織の体積を比較しました。1)は800 mm3で、3週間で10倍に拡大しました。2)と3)は650および560 mm3で、ある程度は成長が抑制されたことが分かります。4)は240 mm3と、大幅な抑制効果を認めました。特筆すべきは、17日目の460 mm3をピークに、最後の4日間で右肩下りに腫瘍組織が縮小した点です。

この右肩下りの縮小は、癌細胞の自然死を示唆しています。自然死はアポトーシスとも呼ばれ、予め予定されている細胞の死です。オタマジャクシがカエルに成長する際の、尻尾の消滅を思い浮かべて下さい。尻尾を構成する細胞が予定されていた自然死を迎え、すなわちアポトーシスされます。そこで、各グループの腫瘍組織における、アポトーシスを促進する蛋白質と抑制する蛋白質の発現状況を調べました。1)~3)では両者の比率が1~2の間にあり、大きな差はありませんでした。ところが4)での比率は7~8で、1)~3)と比べてアポトーシス促進の方向に振れていました。

従って、オキサリプラチンとケルセチンとの組合せの効果は、結腸直腸癌細胞HCT116へのアポトーシスの誘導で説明ができます。組合せで見られた腫瘍組織の右肩下りの縮小の本質は、HCT116へのアポトーシスであり、オタマジャクシの尻尾のごとく腫瘍組織が消滅しました。

キーワード: 結腸直腸癌、HCT116、オキサリプラチン、ケルセチン、腫瘍組織、アポトーシス