ケルセチン-3-O-グルクロン酸抱合体は、肺組織を毒素から守る
出典: Journal of Food and Drug Analysis 2023, 31, 254-277
https://www.jfda-online.com/journal/vol31/iss2/5/
著者: Pei-Rong Yu, Jen-Ying Hsu, Chiao-Yun Tseng, Jing-Hsien Chen, Hui-Hsuan Lin
概要: ケルセチンの類似物質の一つに、ケルセチン-3-O-グルクロン酸抱合体があります。ケルセチンに1個の糖が結合した構造です。ケルセチンが腸から体内に吸収されると、ケルセチン-3-O-グルクロン酸抱合体に変化することが知られています。今回の研究では、毒素による肺の損傷を、ケルセチン-3-O-グルクロン酸抱合体が改善することが示されました。
最初の実験は、肺の組織を構成するMRC-5という細胞を用いて行われました。MRC-5をリポ多糖という細菌由来の毒素で刺激すると、炎症が起こり、最終的には細胞死を誘発します。しかし、予めケルセチン-3-O-グルクロン酸抱合体で処置したMRC-5では、リポ多糖で刺激しても炎症や細胞死は全く起きませんでした。ケルセチン-3-O-グルクロン酸抱合体によって、リポ多糖の毒性からMRC-5を守るという有望な結果が得られたので、実験の中心を細胞から動物へ移しました。
マウスを3グループに分け、以下の処置を行いました。1) 何も処置しない正常群、2) 10日おきに毒素を注射、3) 10日おきに毒素とケルセチン-3-O-グルクロン酸抱合体を同時注射。30日後すなわち3度目の処置をした直後に、各グループの肺組織と働きを比較しました。なお、使用した毒素は、細胞実験ではリポ多糖のみでしたが、動物実験ではエラスターゼという毒素をリポ多糖と併用しました。
まず、1分間当たりの平均呼吸回数を調べました。1)~3)はそれぞれ、130回、50回、105回でした。3)のデータは正常には及ばないにせよ、ケルセチン-3-O-グルクロン酸抱合体が、毒素の悪影響を最小限にしたことが分かります。次に、動脈血酸素飽和度を調べました。これは、動脈中のヘモグロビンの内、酸素と結びついている割合を示した数値で、人間の検査でも汎用されます。指先をクリップに挟むと数秒後に結果が表示され、肺におけるガス交換の働き具合を調べます。若い人の動脈血酸素飽和度は平均98%で、高齢者で95%ですが、90%を下回ると呼吸困難と診断されます。1)および3)は95%付近をキープしましたが、2)では80%であり、肺損傷の深刻さを物語っています。
2)においては、肺のむくみが顕著でした。肺の重さをmgで表示して、gで表示した体重で割った値を比較しました。体重あたりに占める肺の割合ですので、数値が大きいほど、むくみは重篤です。1)~3)のデータはそれぞれ、7.0、13、8.8でした。よって、ケルセチン-3-O-グルクロン酸抱合体は、肺のむくみも抑制しました。
毒素は呼吸回数を減らし、ガス交換の働きを低下させ、組織にむくみを与えます。ケルセチン-3-O-グルクロン酸抱合体が肺を毒素から守った現象は、細胞と動物の両方のレベルで検証されました。
キーワード: ケルセチン-3-O-グルクロン酸抱合体、リポ多糖、呼吸回数、動脈血酸素飽和度、むくみ