ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンによる延命効果の本質を探る

出典: International Journal of Molecular Sciences 2023, 24, 12223

https://www.mdpi.com/1422-0067/24/15/12223

著者: Francesco Abbiati, Stefano Angelo Garagnani, Ivan Orlandi, Marina Vai

 

概要: ケルセチンには長寿を促進する延命効果があることが、よく知られています。しかし、長寿を促進するケルセチンの具体的な働きは、明らかではありませんでした。今回の研究では、酵母を用いる実験にてケルセチンによる延命効果が実証され、同時に仕組みの一部が解明されました。

酵母とは、糖分をアルコールと二酸化炭素に分解する微生物であり、発酵と呼ばれるこの現象は、パンや酒類の製造に応用されています。すなわち酵母は糖分を栄養源として生きているのですが、糖分の無い状態では、自ら作るアルコールを栄養源に切替えます。酵母の栄養源を糖分からアルコールへの変化を、ジオーキシーシフト(以下、DS)と呼びます。しかし、糖分なしで作れるアルコールには限りがありますので、DSになった酵母の寿命は長くありません。言い換えれば、糖分が絶たれても即死せず、少しでも生き延びるための手段がDSです。

ケルセチンの添加の有無の違いで、DSの酵母を2通りの条件で培養しました。すなわち、酵母の寿命に与えるケルセチンの影響を調べる実験です。ケルセチン無添加のDS酵母は、18日間で全滅し、生存率が50%になった、すなわち半分の酵母が生きていた時期は10日目でした。ケルセチンを300 μMの濃度で加えて培養すると、全滅時期が21日目、生存率50%が13日目となり、それぞれ3日間の延長が観察されました。これが、ケルセチンの延命効果です。

1~7日目には、酵母が作り出した物質を調べました。その結果、ケルセチンを添加するとトレハロースという糖分が、無添加の酵母に比べて盛んに作られていました。例えば3日目を例に取ると、トレハロースの濃度は6.4 nMと4.5 nMで、ケルセチン添加による違いが顕著に現れました。また、トレハロースを産出する際に必須不可欠なPCK1という酵素の働きも、トレハロースの濃度の変化と良好に一致していました。この事実から、栄養源である糖分が遮断されたDSでも、酵母はPCK1を働かせて、トレハロースなる糖分を自ら産出する事が分かりました。このトレハロースの産出量の違いが、ケルセチンの延命効果を反映していることが、容易に想像できます。そこで、より強い証拠を求めて、次の実験を行いました。

先程のDS酵母の培養実験にて、ケルセチンの代わりにPCK1を活性化する化学物質を添加しました。すると、ケルセチンと全く同じ全滅時期が21日目、生存率50%が13日目という結果が得られ、ケルセチンによるPCK1の活性化とトレハロースの産出が延命効果を示唆するデータが得られました。しかし驚くことに、生存率50%となった13日目にケルセチンを添加すると、全滅時期が27日目に延長されました。これに伴って、トレハロースの産出量も増えました。この結果が意味することは、PCK1を関与させなくともトレハロースを作るルートが別に存在し、その経路もケルセチンが活性化した事実です。詳しく調べたところ、GUT2という酵素をケルセチンが活性化していました。また、GUT2が関与するトレハロース産出の別ルートも、新たに発見されました。

キーワード: ケルセチン、延命効果、酵母、ジオーキシーシフト、トレハロース、PCK1、GUT2