ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

新たに解明されたケルセチンが糖尿病を改善する仕組み

出典: Journal of Physiology and Pharmacology 2023, 74, 149-158

https://www.jpp.krakow.pl/journal/archive/04_23/pdf/10.26402/jpp.2023.2.03.pdf

著者: R. Q. Ke, Y. Wang, S. H. Hong, L. X. Xiao

 

概要: この連載でも幾つか紹介していますが、ケルセチンが糖尿病に効果を示すことは、よく知られています。しかし、なぜケルセチンが糖尿病に効くのか、その根底に関しては不明な点が多いのが現状です。今回の研究では、マウスを用いる実験にて、仕組みの一部が解明されました。

高脂肪食と毒物から糖尿病の症状を誘発したマウスに、ケルセチンを投与しました。予想通り、糖尿病に特有の症状である、血糖値の上昇・血中インスリンの上昇・糖化したヘモグロビンの増大・膵臓組織の損傷は、ケルセチンが大幅に改善しました。この一連の実験において、糖尿病の誘発やケルセチンの投与でマウスの体内の変化を、特にミクロな視点から徹底的に追求しました。その結果、マイクロRNAと呼ばれる生体物質に行き当たりました。通常のRNAが数万個の塩基対を持つのに対して、マイクロRNAは約20個程度の塩基対しかなく、その名のごとく微小のRNAです。また、通常のRNAのような蛋白質をコードする機能がないのも、マイクロRNAの特徴です。さて、miR-92b-3pというマイクロRNAが、特徴的な動きをしたことが分かりました。すなわち、糖尿病の誘発でmiR-92b-3pが減少し、ケルセチンによる症状の改善に伴いmiR-92b-3pの発現が回復しました。

次に、miR-92b-3pを組込んだウィルスを用いて実験しました。ウィルスとは言え、病気に感染させる訳ではなく、あくまでもマイクロRNAの運び手としての役割です。すなわち、ケルセチンの投与と同時に、miR-92b-3pを組込んだウィルスと組込んでいないウィルスをそれぞれマウスの尾に注射して比較しました。ケルセチンの治療効果は、miR-92b-3pにより増強され、全ての症状がより良好に改善されました。一方、miR-92b-3pの発現を抑制するマイクロRNAを組込んだウィルスを注射すると、ケルセチンの効果は打消され、症状の改善は全て弱くなりました。

以上の結果は、ケルセチンの症状改善効果とmiR-92b-3pの発現とが密接に関係していることを示します。次に、miR-92b-3pが直接作用するEGR1という蛋白質に着目しました。ケルセチンとmiR-92b-3pとで治療効果が増強された際は、EGR1の発現は半分に減少していました。反対に、アンチmiR-92b-3pがケルセチンの効果を打消した際には、EGR1の発現は2倍に増えていました。そこで今度は先程と同様に、マイクロRNAでEGR1の発現調節を行いました。ケルセチンの投与と同時に、EGR1の発現を促進するマイクロRNAを組込んだウィルスを注射すると、ケルセチンの効果は打消されました。逆に、EGR1の発現を抑制すると、ケルセチンの効果は増強されました。

以上の結果、ケルセチンが糖尿病に効く仕組みの一部が解明されました。ケルセチンを投与すると、マイクロRNAであるmiR-92b-3pの発現が盛んになります。増大したmiR-92b-3pはEGR1なる蛋白質に作用するので、その働きを抑えます。その結果、糖尿病の諸症状が改善されました。それならば、EGR1と糖尿病の症状にはどのような関係があるのか?という疑問が湧いてきます。これは今後、解決されるべき課題で、謎が解けたら生じた新たな謎です。

キーワード: ケルセチン、糖尿病、マウス、マイクロRNA、miR-92b-3p、EGR1