フニンウィルスに対抗するケルセチン
出典: Viruses 2023, 15, 1741
https://www.mdpi.com/1999-4915/15/8/1741
著者: Aaron Ezequiel Alvarez De Lauro, Miguel Angel Pelaez, Agostina Belén Marquez, Mariel Selene Wagner, Luis Alberto Scolaro, Cybele Carina García, Elsa Beatriz Damonte, Claudia Soledad Sepúlveda
概要: フニンウィルスとは、アルゼンチン出血熱の病原体として知られています。フニンウィルスに感染すると、数日間の潜伏期間の後、筋肉痛・頭痛・発熱といった症状を呈します。アルゼンチンでは毎年数百人の患者が出ており、10~30%の高い致死率です。感染経路は、患者との接触の他にネズミの唾液や排泄物が挙げられ、食器や食物を介した例もあります。なお、フニンウィルスに対する有効な治療薬やワクチンがないのが現状です。今回の研究では、ケルセチンがフニンウィルスの増殖を阻害することが実証され、希望の光となりました。
実験は、ベロ細胞というサル由来の腎臓の細胞と、A549細胞というヒト由来の肺上皮細胞を用いて行われました。フニンウィルスに限らずウィルスは、自力で子孫を残すことが出来ません。宿主細胞と呼ばれる細胞に感染して、すなわち細胞にウィルスが侵入し、その細胞が有する複製機能を使って初めてウィルスは増殖できます。従って、ベロ細胞とA549細胞を宿主細胞とする人工的なフニンウィルスの増殖にて、ケルセチンの阻害効果を調べました。
それぞれの細胞にケルセチンを添加して、その2時間後にフニンウィルスを加えて感染させました。さらにその48時間後のフニンウィルスの量を調べました。ケルセチンを作用しないと、ウィルスは最も増殖が増えますので、この時の量を基準とします。数種類の異なる濃度でケルセチンを添加して、無添加時の最大増殖量の50%となった濃度を求めたところ、ベロ細胞は7.5 μg/mL、A549細胞は6.1 μg/mLでした。濃度が薄い程、より少ないケルセチン量でウィルスの増殖を阻止しますので、ベロ細胞とA549細胞を比べると、同等ながらA549細胞の方がやや効きが良いことを示しています。
次の実験は、ケルセチンとフニンウィルスの加える順番を逆にして、それ以外は全く同じ条件で行いました。すなわち、フニンウィルスに感染した2時間後にケルセチンを加えました。最大増殖量の50%となったケルセチン濃度は、ベロ細胞では46.8 μg/mL、A549細胞は32.5 μg/mLでした。この結果は、先にケルセチンを加えた方がより効果的に増殖を抑制し、フニンウィルスに感染してから加えると5~6倍のケルセチンを要することを意味します。
次にベロ細胞のみを用い、ケルセチンの濃度を50 μg/mLに固定して、ケルセチンの投入時期を検討しました。フニンウィルス感染と同時にケルセチンを添加し、その48時間後のウィルスの量を調べ基準としました。感染1時間後にケルセチン添加した時のウィルス量は、同時投与時の約3倍でした。感染2時間後では約20倍となり、以降3~12時間後は約20倍のまま変化がありませんでした。
以上の結果、フニンウィルスがまさに宿主細胞に感染する時に、近傍にケルセチンが存在した時のみ、その増殖を抑制できました。感染して2時間以上経過すると、もはや手遅れで効果が弱まりました。よって、ケルセチンには、治療薬よりも予防薬としての役割が期待できそうです。
キーワード: フニンウィルス、ケルセチン、宿主細胞、ベロ細胞、A549細胞