ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンは、心筋梗塞の標準治療の効果を増強する

出典: Hellenic Journal of Cardiology 2024, 76, 68-74

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1109966623001410

著者: Sergey Kozhukhov, Parkhomenko Alexander, Yaroslav Lutay, Nataliia Dovganych

 

概要: 心筋梗塞とは冠動脈の詰り(梗塞)が原因で、心臓を構成する筋肉(心筋)に血液が行き届かなくなり、壊死を起こす病気です。壊死部分が増えると心機能が低下して、最後には死に至ります。そこで、これ以上壊死部分を増やさぬよう、太ももや腕の動脈からカテーテルを入れて詰った冠動脈を広げて、再び血流を開通する治療が行われます。この一連の処置は、再灌流(さいかんりゅう)と呼ばれています。今回の研究では、再灌流にケルセチン投与を追加すると、心筋梗塞の回復を促進することがヒトで実証されました。

心筋梗塞患者を対象とする臨床研究ですが、心電図による検査の結果、早急に再灌流処置が必要と診断された患者さんが被験者です。このため、入院直後に1回目の再灌流が行われ、その2時間後には2回目の再灌流が施されました。さらに12時間後に3回目が実施され、これが入院初日のスケジュールです。入院2日目と3日目には、12時間おきに1日2回の再灌流が行われました。また、入院4と5日目には、1日1回の再灌流処置となりました。全部で143名の被験者ですが、ランダムに2群に分け、73名は標準治療である再灌流のみを施す比較対照群としました。残る70名はケルセチン群として、ケルセチン500 mgを含む生理食塩水を15~20分かけて点滴した後で、毎回の再灌流を実施しました。治療内容によって、どちらのグループに属しているか、被験者本人にも医師にも明らかです。従って、臨床試験の分類としては、オープンラベルという位置付けになります。

入院による治療はこの5日間ですが、症状は入院中に常時継続してモニタしました。特に、心筋梗塞の指標となる血中のクレアチンキナーゼMBは、重要な監視項目です。クレアチンキナーゼMBとは心筋中で収縮する際のエネルギー供給に関与していますが、心筋梗塞で組織が損傷を受けると血液中に流れ出ます。その結果、心筋梗塞を発症すると速やかに血中クレアチンキナーゼMBが上昇し、18~24時間後にはピークに達し、治療が成功すれば72時間後には正常に戻ることが知られています。実際、今回の臨床研究でも同様の挙動を確認しましたが、注目すべきことに、70時間に検出されたケルセチン群のクレアチンキナーゼMBは、対照群と比べて18%少ない値でした(P<0.015)。この事実は、ケルセチン投与の追加が治療効果を増強して、回復を早めたことを意味します。また、入院3日目には、磁気共鳴画像にて心筋組織を診断しました。梗塞中心部の出血は、ケルセチン群が11%で、対照群が54%でした(P=0.024)。

心筋梗塞の治療は再灌流が主体であり、ケルセチンの投与は補助的な役割に過ぎません。しかし、その補助的手段が、治療効果を間違いなく増強しました。

キーワード: 心筋梗塞、臨床研究、再灌流、ケルセチン、クレアチンキナーゼMB、出血