ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

外科分野におけるケルセチンの活躍

出典: Life 2023, 13, 1781

https://www.mdpi.com/2075-1729/13/8/1781

著者: Terenzio Cosio, Gaetana Costanza, Filadelfo Coniglione, Alice Romeo, Federico Iacovelli, Laura Diluvio, Emi Dika, Ruslana Gaeta Shumak, Piero Rossi, Luca Bianchi, Mattia Falconi, Elena Campione

 

概要: 手術後には、しばしば傷跡が目立ちます。特にケロイドと呼ばれる、皮膚が赤く盛り上がる瘢痕組織が元に戻るのは時間がかかります。ケロイドを始めとする手術後の傷跡は、皮膚組織に存在する線維芽細胞が過剰に増殖する現象と考えられています。そこで、線維芽細胞の増殖を抑制する仕組みが盛んに研究されています。今回の研究では、ケルセチンによる手術後の傷跡の回復促進効果が、ヒトを対象とする臨床研究で実証されました。さらに、その根底にあるケルセチンの働きが線維芽細胞の増殖抑制であることも、コンピュータにて予測されました。

手術後の被験者64名を対象に行われました。ランダムに2群に分け、この内30名は比較対照群として、傷跡にシリコンゲルを塗布する標準治療が施されました。残る34名はケルセチン群として、シリコンゲルの代わりに、5%のタマネギ抽出物と5%のヒアルロン酸を含むゲルを傷跡に塗布しました。なお、タマネギ抽出物の主成分はケルセチンです。治療期間は12週間として、4週間ごとに傷跡の状態を検査しました。

傷跡の回復の評価指標には、傷の硬さ・高さ・赤さ・色素沈着・痛み・かゆみの6個の項目を点数化する「バンクーバー瘢痕スケール」を用いました。例えば高さの項目は、平坦な傷なら0、2 mm以下であれば1、2~5 mmなら2、5 mm以上であれば3という風に点数をつけます。痛みに関しては、痛みなしが0、時々痛むのが1、薬を要する程痛いなら2となります。このように各項目の点数を合計がバンクーバー瘢痕スケールで、数値が大きい程重症度が高くなり、最大で17です。手術が終了した時点では、両群とも4~8のバンクーバー瘢痕スケールで、傷跡の治療を開始しました。手術による傷ですので、2桁になる程の重症には至りません。余談ながら、2桁となる典型例は重度の火傷です。治療4週目には、対照群が4~8でほとんど変化がなかったのに対し、ケルセチン群は3~6となり回復の早さが示されました。8週目では、対照群が3~8でケルセチン群は2~6であり、ばらつきが目立ちながらも、ケルセチン群の有意性が分かります。治療が終了した12週目は、対照群の2~6に対してケルセチン群は1~5となり、ケルセチンの治療効果が実証されました。

最近の研究で、TGF-βという蛋白質の働きを阻害すると、線維芽細胞の増殖を抑制することがわかりました。そこで、ケルセチンとTGF-βとの形状をコンピュータで予測したところ、鍵と鍵穴のような親和性があることが示唆されました。この事実は、ケルセチンが手術後の傷跡の回復に効果を示したことの、重要な裏付けとなりそうです。

キーワード: 手術、傷跡、ケルセチン、バンクーバー瘢痕スケール、線維芽細胞、TGF-β