ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

椎間板変性症の主原因となる酸化ストレスは、ケルセチンが軽減する

出典: World Journal of Stem Cells 2023, 15, 842-865

https://www.wjgnet.com/1948-0210/full/v15/i8/842.htm

著者: Wen-Jie Zhao, Xin Liu, Man Hu, Yu Zhang, Peng-Zhi Shi, Jun-Wu Wang, Xu-Hua Lu, Xiao-Fei Cheng, Yu-Ping Tao, Xin-Min Feng, Yong-Xiang Wang, Liang Zhang

 

概要: 背骨は24個の骨が重なって構成され、骨と骨の間には、クッションとしての役割を果たす椎間板が存在します。その椎間板が損傷を受けた状態が椎間板変性症と呼ばれ、腰痛を呈します。重い物を持ったり過度な運動は椎間板変性症の原因の一部ではありますが、最大の要因は加齢です。年をとると腰痛がひどくなる時は、椎間板変性症が疑われます。加齢に伴う酸化ストレスが、椎間板の内部組織である髄核を損傷するので、椎間板変性症を発症します。今回の研究では、髄核を構成する髄核細胞に酸化ストレスを与えた際の老化を、ケルセチンが抑制することが実証されました。

髄核細胞をTBHPという強力な酸化剤で刺激して酸化ストレスを与え、老化の指標となる蛋白質の発現を調べました。7項目を対象として、その全て発現が上昇しました。酸化ストレスにより髄核細胞が老化する椎間板変性症の、細胞レベルでの再現と見なせます。ところが、髄核細胞にケルセチンを添加して、その24時間後にTBHPで酸化ストレスを与えると、監視項目7個全ての上昇が抑制されました。増殖が不可能な状態でありながら死には至らない老化細胞にて特異的に存在するSA-β-galという蛋白質があり、7項目の指標の一つです。TBHPによる酸化ストレスは、このSA-β-galを約5倍に増やしましたが、ケルセチンはその半分の2.5倍程度に抑えました。

酸化ストレスは髄核細胞の老化を促進しましたが、その一方で、長寿関連の遺伝子は抑制しました。最近注目を浴びている長寿遺伝子ですが、この遺伝子が活性化されるとSIRT1という蛋白質が増えることが知られています。TBHPによる酸化ストレスは、SIRT1の発現を30%に減少しましたが、ケルセチンによって70%まで回復しました。この結果は、酸化ストレスは老化の促進と同時に長寿遺伝子も不活性化することを意味しますが、両方ともケルセチンが修復しています。

長寿遺伝子の不活性化にヒントを得て、長寿遺伝子を特異的に認識して結合する核酸をデータベースで検索しました。その結果、miR-34a-5pというミクロRNAに行き当りました。このmiR-34a-5pが結合すると長寿遺伝子が働かなくなり、その結果SIRT1が産出できなくなると予想しました。そこで、miR-34a-5pが過剰発現した髄核細胞を用意して、先程と同様の実験を行いました。酸化ストレスで7つの老化指標が上昇するまでは一緒でしたが、ケルセチンの効果は打消され、ケルセチンを加えても老化指標は減りませんでした。従って、この実験でケルセチンの役割が明確になりました。ケルセチンはmiR-34a-5pの発現を抑制し、酸化ストレスによる長寿遺伝子の不活性化を防いだ結果、老化指標の上昇が抑制されました。

最後に、針で刺して椎間板変性症にしたラットにケルセチンを投与したところ、症状の回復を認めました。細胞で検証されたケルセチンの効果が、椎間板変性症の治療薬に向けて一歩前進したところです。ケルセチンが加齢による腰痛から人々を助ける時代の到来が楽しみです。

キーワード: 椎間板変性症、髄核細胞、酸化ストレス、老化、ケルセチン、SIRT1、miR-34a-5p