ケルセチンによる子宮内膜症の治療
出典: Endocrinology 2023, 164, bqad133
https://academic.oup.com/endo/advance-article-abstract/doi/10.1210/endocr/bqad133/7257458
著者: Lei Zhang, Kumaravel Mohankumar, Gregory Martin, Fuada Mariyam, Yuri Park, Sang Jun Han, Stephen Safe
概要: 子宮内膜症とは、子宮の内側を覆う子宮内膜が、卵巣や卵管や腸など子宮以外の場所に発生する病気です。通常の子宮内膜と同様に子宮内膜症でも月経時には出血が起こるため、周囲の組織と癒着を起こし、激しい生理痛を伴います。また、子宮内膜症は不妊のリスクが高まることが知られています。今回の研究では、ケルセチンによる子宮内膜症の治療効果がマウスを用いる実験で示されました。最近の研究で、他の組織に発生した子宮内膜症を構成する子宮内膜症細胞には、NR4A1と呼ばれる蛋白質が、正常な子宮内膜細胞より多く発現していることが判明しました。また、ケルセチンがこのNR4A1と親和性があり、安定に結合することは約20年前から知られていました。そこで、ケルセチンに着目して研究が開始されました。とは言うものの、単にケルセチンがNR4A1と結合しやすい事実だけが既知で、NR4A1を持つ細胞に与える影響までは不明でした。
患者さんの子宮内膜症組織から採取した子宮内膜症細胞に、ケルセチンを作用すると、その増殖率が低下しました。すなわち、25 μMの濃度のケルセチンを添加すると、子宮内膜症細胞の増殖率は85%に低下し、75 μMでは45%に低下する濃度依存性が見られました。その一方で、正常な子宮内膜細胞には高濃度のケルセチンを添加しても、増殖率は無添加時からの変化はありません。
次に、ケルセチンを投与した際の、子宮内膜症細胞におけるサバイビンという蛋白質の変化をサバイビン調べました。サバイビンとは、子宮内膜症細胞や癌細胞で高い発現が見られるのが特徴で、細胞の生存に必須不可欠な役割を担います。75 μMの濃度のケルセチンが存在すると、サバイビンは無添加時の25%にまで減少しました。また、NR4A1を働かなくした子宮内膜症細胞でもサバイビンの減少を確認して、ケルセチンはNR4A1に結合して増殖を抑制することが明確になりました。
次に子宮内膜症のマウスで実験を行いました。子宮内膜症細胞をマウスに移植して発症させますが、先程の実験では患者さんから同細胞を採取したので、反対の操作となります。マウスに移植する際、子宮内膜症細胞にはルシフェラーゼという発光物質を含ませておきます。蛍が光るのは、この発光物質の働きです。従って、子宮内膜症のマウスでは、患部だけが蛍のように光ります。細胞を移植して3週間後には、子宮組織が光るようになり、子宮内膜症の発症が確認できました。ここでマウスを2群に分け、片方は1日にケルセチンを100 mg/kg飲ませ、もう片方にはケルセチンを飲ませない対照としました。2週間の投与期間が終了した後、両群の光り具合を比較すべく、光の強度を機械で検出しました。その結果、ケルセチン投与群は、対照を100%とした時の20%の強度となりました。
細胞実験の時と同様に、マウスにケルセチンを飲ませても、移植した子宮内膜症細胞の増殖が抑制できました。今回の結果は、ケルセチンが子宮内膜症の治療薬となる可能性を示唆しています。
キーワード: 子宮内膜症、NR4A1、ケルセチン、子宮内膜症細胞、サバイビン、発光物質