ケルセチンはカビ毒から子ブタの腸を守る
出典: Current Research in Toxicology 2023, 5, 100122
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666027X23000208
著者: Enkai Li, Chuang Li, Nathan Horn, Kolapo M. Ajuwon
概要: カビ毒とは、カビが産出する化学物質で、人や家畜の健康に害を及ぼす毒素のことです。穀類を汚染するデオキシニバレノール(以下DON)というカビ毒は、嘔吐や食欲不振を起こします。今回の研究では、DONによる子ブタの腸の損傷を、ケルセチンが軽減することが示されました。
離乳したばかりの子ブタを3群に分け、以下の処置を行いました。1) 通常の餌で飼育、2) 通常の餌で飼育しDONを与える、3) 0.1%のケルセチンを含む餌で飼育しDONを与える。違う種類の餌で飼育する期間は2週間で、1度だけDONを飲ませ、その24時間後の腸の状態を比べました。腸は栄養分を吸収するだけでなく、有害な菌や物質は吸収しない働きもあり、バリア機能と呼ばれます。そのバリア機能を担うのが、絨毛(じゅうもう)と呼ばれる腸粘膜の表面に存在する突起物です。この絨毛ですが、1)に比べて2)では極端に縮小しており、DONによるバリア機能の低下が示されました。また、バリア機能を発揮する上で必要なクローディン-4という蛋白質の量を調べたところ、2)は1)の20%に低下していました。ケルセチンを予め投与した3)では、DONの悪影響が回避され、絨毛の縮小は最小限に抑えられ、クローディン-4に至っては3)と全く同じ量を示しました。ケルセチンの保護効果を物語るデータがえられましたが、ケルセチンは腸組織にNrf2という蛋白質を増やしていました。Nrf2はDONで減少しており、その相対量は3) > 1) > 2)という関係でした。そこで、クローディン-4とNrf2との間にはどのような関係があるかを知るために、次の実験を行いました。
今度は細胞を用いる実験です。ブタの腸細胞をDONで刺激すると、クローディン-4の量が減少しました。予めケルセチン処置した腸細胞では、DONで刺激してもクローディン-4の量は減らず、動物実験の結果を再現しました。ところがNrf2に関しては、未処置の腸細胞・DON単独処置の腸細胞・DONとケルセチン共処置の腸細胞、3通り全てが一定の値で変化がなく、動物実験とは異なる結果となりました。そこで、腸細胞におけるNrf2を産出する遺伝子の発現を調べたところ、DONは発現を抑制し、ケルセチンは発現を促進していることが分かりました。遺伝子の発現を促進するのに、Nrf2の量が増えないのは変ではありますが、ケルセチンがNrf2の働きを活性化したと説明できます。
この説明の証拠を強化すべく、次の実験を行いました。Nrf2の阻害物質が存在する腸細胞において、DONの単独処置、DONとケルセチン共処置をそれぞれ行いました。その結果、両者ともクローディン-4の量は減少し、ケルセチンがクローディン-4の量を維持する機能は、Nrf2阻害物質の存在下では打消されたことになります。
以上の結果、DONによる子ブタの腸の損傷とバリア機能の損失は、ケルセチンが保護しました。その本質は、Nrf2の活性化に基づく、クローディン-4の減少抑制でした。
キーワード: カビ毒、デオキシニバレノール、ケルセチン、クローディン-4、Nrf2、バリア機能