ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

癌治療における筋委縮の副作用を、ケルセチンとロイシンで克服する

出典: PLoS ONE 2023, 18, e0291462

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0291462

著者: Te-Hsing Hsu, Ting-Jian Wu, Yu-An Tai, Chin-Shiu Huang, Jiunn-Wang Liao, Shu-Lan Yeh

 

概要: シスプラチンという、汎用されている抗癌剤があります。胃癌・食道癌・肺癌・子宮頸癌・卵巣癌・前立腺癌・骨肉腫と幅広い効能効果があり、40年近い販売実績にあるロングセラーですが、筋萎縮に代表される副作用もあります。筋萎縮とは筋肉の組織がやせ衰える現象で、筋力の低下が特徴です。今回の研究では、ケルセチンとアミノ酸の一種であるロイシンとの組合せが、シスプラチンによるマウスの筋萎縮を軽減することが示されました。

マウスを5群に分け、以下の処置を行いました。1) 対照として何もしない、2) シスプラチン3 mg/kgを週に1回投与、3) ケルセチン200 mg/kgを毎日投与、4) ロイシンを1.6%含む餌を与えて継続的に投与、5) ケルセチンとロイシンの組合せを投与すべく3)と4)を併用。投与7週目にて、筋萎縮の度合いを比較するために握力を測りました。マウスの前脚2本で握力計を握らせておき、尾を後ろへ静かに引きます。マウスは習性的に強く握るので、握力が記録されます。堪えきれずに前脚を放した時の数値を最大握力としてデータ化した結果、1) 120 g、2) 78 g、3) 84 g、4) 91 g、5) 110 gとなりました。人間と違いマウスですので、握力の単位はkgではなくgです。1)と2)を比べると、シスプラチンによる握力の大幅な低下が分かります。ケルセチンもロイシンも握力を回復していますが、両者を組合せると更に効果的で、正常近くまで回復したことを3)~5)が示しています。

次に、マウスの腿の筋肉を調べました。筋肉を構成する細胞の面積を顕微鏡で比較したところ、1) 3800 μm2、2) 1400 μm2、3) 1900 μm2、4) 1900 μm2、5) 2600 μm2となりました。シスプラチンは細胞のサイズを37%も減少しており、筋萎縮の進行を端的に物語っています。ここでも、ケルセチンとロイシンの単独処置による回復は僅かですが、組合せが効果的でした。

ケルセチンとロイシンとの組合せで筋萎縮を避けられても、シスプラチンによる癌の治療を妨げるなら本末転倒です。そこで、ケルセチンとロイシンとの組合せを投与した際に、シスプラチンの抗癌効果に与える影響を調べました。マウスに癌細胞を注射して、4週間後に200 mm3の腫瘍組織が形成したことを確認しました。この時点で先程と同様に5群に分けて、薬物処置も同様に行いました。8週間後の腫瘍組織の体積は、1) 1400 mm3、2) 750 mm3、3) 600 mm3、4) 750 mm3、5) 600 mm3となりました。1)のように放置すると無限に増殖するのが癌の特徴ですが、2)では半分の大きさに抑えられており、これがシスプラチンの抗癌効果です。2)と4)は同じ大きさですので、ロイシンはシスプラチンの抗癌効果を妨げないことが分かりました。面白いことに、3)と5)はさらに縮小しており、ケルセチンによる妨害がないどころか、シスプラチンの抗癌効果を増強しています。理由は、ケルセチンにも抗癌作用があるからに他なりません。

ケルセチンとロイシンの組合せはシスプラチンの副作用である筋萎縮を克服した上、抗癌効果を増強して、まさに一石二鳥です。

キーワード: シスプラチン、筋萎縮、ケルセチン、ロイシン、握力、抗癌効果