ケルセチンとアルギニンの組合せで、肝臓を酸化銅ナノ粒子から守る
出典: Biological Trace Element Research 2023, 202, 3128–3140
https://link.springer.com/article/10.1007/s12011-023-03884-w
著者: Amina M. Haroun, Wael M. El-Sayed, Rasha E. Hassan
概要: 酸化銅ナノ粒子は半導体や太陽電池に用いられ、ハイテク産業を支える重要な素材です。ナノとは10億分の1のことで、ナノ粒子とは直径が100ナノメートル以下、すなわち1000万の1メートル以下の粒子のことです。これだけ細かい物質が体内に入れば、何かしらの健康被害を生じることは容易に想像でき、しかも汎用されています。今回の研究では、酸化銅ナノ粒子によるマウスの肝臓の損傷を、ケルセチンとアミノ酸の一種であるアルギニンが軽減することが示されました。
マウスを5群に分け、以下の処置を行いました。1) 対照群として薬物を投与しない、2) 酸化銅ナノ粒子100 mg/kgを毎日投与、3) 酸化銅ナノ粒子100 mg/kgとケルセチン50 mg/kgを毎日投与、4) 酸化銅ナノ粒子100 mg/kgとアルギニン50 mg/kgを毎日投与、5) 酸化銅ナノ粒子100 mg/kgとケルセチン50 mg/kgとアルギニン50 mg/kgを毎日投与。投与期間は8週間として、その後の肝臓中の銅の量を比べました。1) 3 mg/kg、2) 43 mg/kg、3) 8 mg/kg、4) 4 mg/kg、5) 3 mg/kgという結果でした。2)だけが突出していますが、同じ量の酸化銅ナノ粒子を投与しているにもかかわらず3)~5)では、酸化銅ナノ粒子を与えない1)に近い値です。ケルセチンもアルギニンも銅イオンと安定した複合体を形成することが知られており、銅が肝臓に蓄積せず、複合体の形で体外に排出されたことを意味します。
蓄積した銅の悪影響を調べるべく、TNF-αという炎症の指標を比較しました。TNF-αとは炎症を誘導する因子で、その大小の違いが炎症の進行具合を反映します。血中のTNF-αの濃度は、1) 30 ppb、2) 128 ppb、3) 64 ppb、4) 73 ppb、5) 45 ppbでした。酸化銅ナノ粒子が誘発した炎症は、ケルセチン・アルギニンともに改善しましたが、両者の組合せは更に良好な結果となりました。次に、カスパーゼという細胞死の指標を比較しました。カスパーゼとは細胞死を誘発する際に重要な働きをする蛋白質で、例えば肝臓にカスパーゼが多く発現していると、構成する肝細胞の死が増えており組織の衰弱を意味します。1)における肝臓中に発現したカスパーゼ量を1とした時の相対比は、2) 8.4、3) 1.8、4) 2.4、5) 1.1となりました。ここでも銅の蓄積による肝細胞の死は、ケルセチン・アルギニンともに抑制しましたが、組合せによって初めて正常に戻りました。肝臓から採取した切片を顕微鏡で観察したところ、1)と比べて2)では動脈が極端に拡張し、内側には剥離も見られました。しかし5)は1)とさほど変わらず、銅の蓄積による炎症と細胞死の増加を組合せが改善したデータを反映していました。
酸化銅ナノ粒子は文明の利器を支える無くてはならない存在ですが、その毒性が常に懸念されています。吸い込まないように注意することが重要ですが、万一誤って酸化銅ナノ粒子が体内に入っても、ケルセチンとアルギニンとの組合せが助けてくれそうです。
キーワード: 酸化銅ナノ粒子、ケルセチン、アルギニン、肝臓、炎症、TNF-α、細胞死、カスパーゼ