腸内細菌叢を介するケルセチンによる免疫の強化が、抗癌剤の効果を増強する
出典: Pharmaceuticals 2023, 16, 1422
https://www.mdpi.com/1424-8247/16/10/1422
著者: Andrea Manni, Yuan-Wan Sun, Todd D. Schell, Tymofiy Lutsiv, Henry Thompson, Kun-Ming Chen, Cesar Aliaga, Junjia Zhu, Karam El-Bayoumy
概要: どんなに健康な人でも、1日に約1000個の正常細胞が癌化します。それでも癌を発症しないのは、T細胞というリンパ球が、癌化した細胞を駆除する免疫作用が働くためです。T細胞の働きを活性化して癌細胞の駆除を促進する治療法は、癌の免疫療法と呼ばれています。今回の研究では、ケルセチンがT細胞を増やして、抗癌剤が持つ効果を増強することが示されました。
マウスに4T1という乳癌細胞を移植しました。4T1細胞はトリプルネガティブ乳癌というグループに属しており、再発しやすく治療の予後が悪い比較的厄介な乳癌です。この厄介な癌細胞を移植した結果、23日後には腫瘍組織が1150 mm3になっていました。汎用されている抗癌剤であるシクロホスファミドを7~21日目に投与したマウスは腫瘍組織が700 mm3であり、6割ほどの増殖が抑えられました。シクロホスファミドに替わりにケルセチンを投与しても、同程度の抑制効果が得られました。ところがシクロホスファミドとケルセチンとの組合せを7~21日目に投与すると、腫瘍組織が480 mm3となり、顕著な増強効果を認めました。
両者を組合せると何が違うのかを知るために、腸内細菌叢(腸に生息する細菌類の分布)を調べました。何も投与しないで腫瘍組織が1150 mm3になったマウスと、シクロホスファミドを投与して増殖が抑えられたマウスとでは、少なくとも腸内細菌叢では差がほとんどありませんでした。一方、ケルセチンの投与は、アッカーマンシア・ムシニフィラという菌種を大幅に増やしていました。この菌は冒頭で述べた癌の免疫療法において、T細胞を活性化することが知られています。
ケルセチンによるアッカーマンシア・ムシニフィラの増大が分かったので、ケルセチンがシクロホスファミドの抗癌効果を増強した本質は、T細胞の活性化であろうと見当がつきました。そこで、T細胞を作る脾臓の状況を調べました。全部で3種類のT細胞を調べましたが、何も投与しないマウスに比べると、ケルセチンもシクロホスファミドもT細胞を増やしました。注目すべきことに、それぞれの単独処置時と比べて両者の組合せは、調べた3種類のT細胞すべてを増大していました。T細胞が癌細胞を駆除する一方で、T細胞の働きを抑制する「制御性T細胞」という細胞もまた存在します。T細胞が癌細胞を駆除しますので、制御性T細胞が活性化すると癌の増殖につながります。実際、何も投与しないマウスの脾臓では制御性T細胞が15%存在していました。ケルセチンの単独投与で10%に減少し、シクロホスファミドの単独投与は9%に減少しました。組合せに至っては、5%にまで減少しました。T細胞は増大して、制御性T細胞は減少するので、まさに鬼に金棒と言えましょう。
ケルセチンとシクロホスファミドの組合せが癌に効くのは、T細胞の活性化にありました。その大元として、ケルセチンによるアッカーマンシア・ムシニフィラの増大が示唆されています。
キーワード: ケルセチン、シクロホスファミド、乳癌、腸内細菌叢、T細胞、制御性T細胞、脾臓