ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンがうつ状態を改善する仕組みの解明

出典: Naunyn-Schmiedeberg’s Archives of Pharmacology 2024, 397, 2497–2506

https://link.springer.com/article/10.1007/s00210-023-02789-8

著者: Olusegun Adebayo Adeoluwa, Anthony Taghogho Eduviere, Gladys Onyinye Adeoluwa, Lily Oghenevovwero Otomewo, Funmilayo Racheal Adeniyi

 

概要: うつ病とは、気分の落ち込みや喜びの喪失が約2週間続く気分障害に加え、眠れない、食欲がない、疲れやすい等の身体的症状も現れます。その主な原因として、脳内の神経伝達物質が不足することが挙げられます。今回の研究では、ケルセチンがうつ状態を改善し、その仕組みとして神経伝達物質の働きを活性化することが解明されました。

尾懸垂試験という、うつ状態の進行度合いを調べる実験があります。うつ病の薬を開発する初期の段階で、効き目があるかどうか動物実験で確かめるためにしばしば利用されます。マウスを6分間、尾を固定して逆さ吊りにする実験です。マウスの習性として逃げ出そうと手足を必死に動かしますが、うつ状態にあると諦めてしまい不動時間が長くなります。すなわち、不動時間が短縮すると、うつ状態をより改善できたことを意味します。ケルセチンを投与しないマウスの尾懸垂試験では、6分間の内180秒間が不動時間でした。次にケルセチンを投与して、1時間後に尾懸垂試験を行いました。その結果、10, 25, 50, 100 mg/kgと投与量が増大するにつれ、不動時間は180, 150, 90, 25秒と短縮され、用量依存的な抗うつ効果を示しました。10 mg/kgの低用量では効果がありませんが、25 mg/kgの中用量では効果が見られ始め、50 mg/kg以上の高用量で顕著な効果を認めました。

セロトニンという代表的な神経伝達物質がありますが、このセロトニンを働かせなくするメテルゴリンという薬剤を用いる実験を次に行いました。メテルゴリン4 mg/kgを投与して1時間後に行った尾懸垂試験は、先程のケルセチンの無投与時に近い175秒の不動時間でした。一方、ケルセチン100 mg/kgとメテルゴリン4 mg/kgとを同時投与したマウスは、不動時間が85秒間で、ケルセチン100 mg/kg単独の25秒と比べて抗うつ効果が大幅に低下しました。従って、セロトニンの働きを抑制すると、ケルセチンの抗うつ効果が弱まることが分かりました。反対に、イミプラミンというセロトニンの働きを活性化する薬剤とケルセチンとを組合せる実験も行いました。先程の実験で効果の出なかったケルセチン10 mg/kgの投与ですが、イミプラミン2 mg/kgと同時投与すると、不動時間は90秒となり、ケルセチン50 mg/kgの単独投与に匹敵しました。イミプラミンが増大したセロトニンの働きにより、不十分なはずのケルセチンでも効果が出たことになります。

以上、抑制と促進の実験が導く結論として、ケルセチンの抗うつ効果は、セロトニンの働きの活性化に基づきます。セロトニンと同じ神経伝達物質であるドーパミンとアドレナリンでも同様の実験を行い、働きを抑制するとケルセチンの効果が半減しました。従って、ケルセチンの抗うつ効果は、神経伝達物質の活性化に基づく仕組みが解明されました。

キーワード: うつ状態、尾懸垂試験、ケルセチン、神経伝達物質、セロトニン