ケルセチンが結腸癌細胞の増殖を阻害する二つの標的
出典: Antioxidants 2023, 12, 1547
https://www.mdpi.com/2076-3921/12/8/1547
著者: Emanuele Fosso, Manuela Leo, Livio Muccillo, Vittorio Maria Mandrone, Maria Chiara Di Meo, Annamaria Molinario, Ettore Varricchio, Lina Sabatino
概要: 大腸は結腸と直腸に分けられますが、小腸に近い前半部分が結腸で、肛門に近い後半部分が直腸となります。結腸癌とは結腸に生じる悪性腫瘍で、初期段階には自覚症状がほとんどありませんが、ステージが上がると他の臓器に転移して死に至る厄介な癌です。今回の研究では、ケルセチンが結腸癌細胞であるHCT116の増殖を抑制する仕組みが明らかになりました。
HCT116に濃度を変えてケルセチンを作用すると、濃度依存的にその増殖が抑えされました。従って、ケルセチンの濃度が濃くなるにつれ、HCT116の生存率が下がりました。生存率が50%、すなわちHCT116が半分に減った時のケルセチンの濃度は54 μMでした。以下の実験は全て、54 μMのケルセチンを作用させた際における、HCT116の挙動を調べました。
ケルセチンを作用したHCT116では、miR-27aというマイクロRNAが減少し、発現量が半分になりました。マイクロRNAとは文字通りサイズの小さいRNAのことで、遺伝子情報としての機能がない代わりに、mRNA(メッセンジャーRNA)に結合して蛋白質を作る働きを妨害します。HCT116以外の癌細胞でもmiR-27aは過剰に発現しており、抗癌蛋白質(癌の増殖を抑制する蛋白質)の合成を妨害します。実際、ケルセチンを投与した結果、HCT116内に3種類の抗癌蛋白質の発現が1.3倍・1.4倍・7.0倍に上昇したことを確認しました。いずれの抗癌蛋白質もmiR-27aがその発現を抑制することが知られており、ケルセチンがmiR-27aを減少したため発現が増え、HCT116の増殖抑制を導きました。
ケルセチンはHCT116において、miR-27aを減少しただけでなく、Sp1という蛋白質も半分に減少しました。Sp1もmiR-27aと同様に癌細胞で過剰に発現するのが特徴で、癌組織の成長や転移を担います。Sp1は転写因子というグループに属し、HCT116のDNAに結合して複製を開始させる機能が知られています。従ってSp1がDNAに結合して始めてHCT116が増殖できるため、ケルセチンはその大元を止める働きがあることを意味します。
以上、ケルセチンにはmiR-27aとSp1という2種類の標的がありました。結腸癌細胞であるHCT116に54 μMの濃度でケルセチンを作用させると、miR-27aとSp1の発現がともに半分になりました。その結果、miR-27aが抑制していた抗癌蛋白質が働くようになり、Sp1が担っていたHCT116の複製開始を止めました。ダブル標的を有しているので、ケルセチンには強い抗癌作用があり、HCT116の増殖を強力に阻害しました。
キーワード: ケルセチン、結腸癌、HCT116、miR-27a、Sp1