ルチンは終末糖化産物の働きを抑制して、乾癬の症状を軽減する
出典: International Immunopharmacology 2023, 125, 111033
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1567576923013589
著者: Mingxia Wang, Xiaoxuan Ma, Chunjie Gao, Yue Luo, Xiaoya Fei, Qi Zheng, Xin Ma, Le Kuai, Bin Li, Ruiping Wang, Jiankun Song
概要: 乾癬(かんせん)とは慢性的な皮膚の炎症で、赤く盛り上がった発疹と、ポロポロと剥がれ落ちる銀白色の粉が特徴的な症状です。乾癬の原因は不明な点が多いのが現状ですが、免疫の異常が挙げられます。なお、発音は「かんせん」でも感染症ではないので、人から人に移ることはありません。中医学(中国で古来から実践されている医学)では、決銀顆粒という7種類の生薬を配合した処方が、数千年に渡って乾癬の治療に用いられています。決銀顆粒の主成分がルチン(糖が2個結合したケルセチンの仲間)であることに着目して、今回の研究では、ルチンが乾癬に効くことを報告しました。
ルチンに関係する遺伝子を各種データベースで検索したところ、全部で148個ありました。同様に、乾癬に関連する遺伝子は4594種類がヒットし、両方に共通する遺伝子は84個でした。この84個の遺伝子から任意の2個を選び、互いに作用しあう関係性を調べ、これらを全てに当てはめた遺伝子のネットワークを構築しました。その結果、ルチンは終末糖化産物の働きを抑えて乾癬を治療するという、仮説が提唱されました。終末糖化産物とは、糖が縮合して劣化した蛋白質の総称で、動脈硬化・心筋梗塞・認知症・癌などの原因となることが知られています。
仮説を検証するための実験は、マウスを用いて行いました。炎症を誘発する化学物質をマウスの背中と耳に塗り、ヒトの乾癬と似た状態を作りました。その後、3つのグループに分けて、以下の処置を12日間行いました。1) 何もせずに放置、2) 患部にルチンを配合したクリームを塗布、3) 患部に乾癬の既存治療薬であるカルシポトリエンを塗布。1)では症状が日を経るごとに悪化して、背中と耳に赤み・紅斑・腫れ・鱗屑と言った、乾癬特有の症状が現れました。背中の表皮は85 μm厚くなり、耳では75 μm厚くなりました。2)と3)では症状が大幅に改善され、表皮の厚みは背中・耳ともに40~50 μmに落ち着きました。注目すべきことに、ルチンの効果はカルシポトリエンとほとんど違いがなく、同等性が示されました。
次に、耳の表皮の状態を詳しく調べました。終末糖化産物の体内での挙動として、受容体と呼ばれる蛋白質に結合します。受容体への結合が起こると、NF-κBという信号が伝達され、炎症誘導の大元が動き出します。NF-κBが活性の細胞、すなわち終末糖化産物が働いている細胞の数を比較しました。その結果、1)では1 mm2辺りにNF-κB陽性の細胞が190個見つかりました。2)は40個、3)は35個と、顕著に減少していました。さらに、終末糖化産物がまず初めに働きかける受容体も、2)と3)では発現量が1)の半分になっており、終末糖化産物が働きにくい状況を、ルチンとカルシポトリエンが同等に作り上げていました。
よって、終末糖化産物の働きを抑制して乾癬を治療するという仮説は、見事に実証されました。
キーワード: 乾癬、ルチン、終末糖化産物、カルシポトリエン、NF-κB