ケルセチンは非小細胞肺癌細胞にて変異した上皮成長因子受容体を分解する
出典: Cell Reports 2023, 42, 113417
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2211124723014298
著者: Zehe Ge, Miao Xu, Yuqian Ge, Guang Huang, Dongyin Chen, Xiuquan Ye, Yibei Xiao, Hongyu Zhu, Rong Yin, Hua Shen, Gaoxiang Ma, Lianwen Qi, Guining Wei, Dongmei Li, Shaofeng Wei, Meng Zhu, Hongxia Ma, Zhumei Shi, Xiuxing Wang, Xin Ge, Xu Qian
概要: 肺癌は、非小細胞肺癌と小細胞肺癌とに大きく分けられます。非小細胞肺癌は肺癌の約85%を占め、手術による治療が基本で、術後に再発防止のため抗癌剤を使うケースもあります。一方、小細胞肺癌は手術が可能な早期で発見される場合が少なく、抗癌剤を用いる治療が中心です。非小細胞肺癌には、T790M変異と呼ばれる種類の癌細胞があり、癌の増殖や転移を担う上皮成長因子受容体(以下、EGFR)という蛋白質が変化した癌細胞です。蛋白質はアミノ酸が連結して構成されますが、790番目のアミノ酸がチロシンからメチオニンに変化したEGFRがT790M変異です。ちなみに、T790MのTはチロシンを意味し、Mはメチオニンを意味します。今回の研究では、ケルセチンがT790M変異した非小細胞肺癌細胞のEGFRを分解することと、癌治療への応用が示されました。
6種類の非小細胞肺癌細胞に、20 μMの濃度でケルセチンを作用して、EGFRの様子を観察しました。6種類の内訳は、EGFRが変異していない細胞が2種類、EGFRがT790M変異した細胞が2種類、T790M変異でない別の箇所が変異してた細胞が2種類です。面白いことにケルセチンは、T790M変異したEGFRのみを特異的に分解して、12時間以内にその存在を20~35%にまで減少しました。しかし、それ以外の4種類の細胞が有するEGFRには影響を及ぼしませんでした。
次に、ケルセチンがT790M変異したEGFRを分解する現象を、さらに深堀りする実験を行いました。先程使用したT790M変異した細胞の一つで、H820という非小細胞肺癌細胞を培養し、ケルセチンもしくはゲフィチニブという薬物の影響を調べました。薬物を何も投与しないで24時間培養した際のH820の生存率が100%であることを確認した後、20 μMの濃度のケルセチンと5 μMの濃度のゲフィチニブを別々に添加しました。24時間後の生存率は、ケルセチン添加が95%で、ゲフィチニブでは85%でした。ところが、20 μMのケルセチンと5 μMのゲフィチニブを同時に投与すると、24時間後には30%の生存率でした。ゲフィチニブとは、手術後に再発したり、手術が不可能なほど進行した非小細胞肺癌の治療に用いられる薬です。しかも、EGFRの働きを抑制して抗癌効果を発揮しますが、T790M変異してしまうと無効であることを、生存率85%という結果が物語っています。また、ケルセチンはT790M変異したEGFRを分解しますが、それだけでは抗癌作用が無いと生存率95%言えます。両者を併用した生存率30%は、ケルセチンがEGFRを分解した結果、ゲフィチニブが本来有していた非小細胞肺癌細胞を死滅させる働きが復活したと言えます。
最後に、H820細胞を移植したマウスの寿命を比較しました。8匹のマウスの内、半分が死滅して4匹になった日数は、薬物投与なしで65日、ケルセチン単独投与で68日、ゲフィチニブ単独投与で70日、ケルセチンとゲフィチニブとの併用が90日となり、細胞実験の結果を反映していました。
キーワード: 非小細胞肺癌、上皮成長因子受容体、T790M変異、ケルセチン、H820、ゲフィチニブ