ケルセチン配糖体が家族性アルツハイマー病の発症を予防する
出典: NFS Journal 2023, 42, 100146
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352364623000251?via%3Dihub
著者: Takuya Yamane, Momoko Imai, Satoshi Handa, Hideo Ihara, Tatsuji Sakamoto, Tetsuo Ishida, Takenori Nakagaki, Susumu Uchiyama
概要: 家族性アルツハイマー病とは、遺伝的な発症と若年性が特徴です。両親のどちらが家族性アルツハイマー病であると、その子供がアルツハイマー病になる確率は50%と言われています。また、通常のアルツハイマー病では70~80歳で発症する例が多く見られますが、家族性アルツハイマー病の発症年齢は40~50歳です。今回の研究では、アロニア果汁による家族性アルツハイマー病の発症予防が発見されました。アロニアとはバラ科の落葉低木で、果実はジャムやジュースに加工されます。アロニアの主成分はルチン・ヒペロシド・イソケルセチンで、ケルセチンに糖が1個または2個結合したケルセチン配糖体に属します。
実験に用いたマウスは、アミロイドβ42というアルツハイマー病の原因物質が過剰に発現するように遺伝子の導入が行われ、生後6週間の時点でアミロイドβ42の脳内蓄積を確認しました。生後2週間の遺伝子導入マウスを10匹用意して、5匹ずつ2グループに分けました。飼育箱に餌と飲料が入る容器を入れ、自由に摂取できる条件下で飼育します。片方の飲料は水とし、もう片方はアロニア果汁とする以外は、全く同じ条件にしました。比較として、遺伝子導入しないマウス5匹も、水を飲料として同じ条件で飼育しました。生後2~12週間を、水とアロニア果汁をそれぞれ与え、14週齢に達した時点で記憶力を評価する実験を行いました。ちなみに、マウスの14週齢は、ヒトの35歳に相当すると言われています。
マウスが通れる3本のアームを用意して、Y字につなぎます。この中にマウスを入れ、10分間自由に行動させた後、試験を開始します。マウスが餌を求める際には、未知の場所に入る習性を利用する実験です。3回連続して異なったアームに入った回数を数えます。この回数の割合が多い程、前に入ったアームがどれかを覚えていますから、短期的な記憶を評価する指標になります。遺伝子操作しない正常のマウスの該当の割合は62%でしたが、遺伝子操作した水グループは45%に落ち込み、14週齢になると記憶障害が現れることが示されました。驚くべきことに、アロニア果汁グループでは飲料が違うだけで65%を記録し、正常と同等の記憶力を示しました。
次に、脳組織に蓄積したアミロイドβ42の塊の数を比較しました。当然ながら、遺伝子操作しないマウスではゼロであり、14週齢の時点ではアミロイドβ42が蓄積しないのが正常であることを示しています。水グループで見つかった塊は22個、アロニア果汁グループでは13個でした。前述したようにアミロイドβ42とはアルツハイマー病の原因であり、神経毒として脳の神経を死滅させます。脳の神経が少なくなると、記憶障害を始めとするアルツハイマー病の症状が現れます。
水の代わりにアロニア果汁を飲み続けるのは、非現実的です。しかし、アロニア果汁中のケルセチン配糖体がアミロイドβ42の蓄積を抑制した結果、家族性アルツハイマー病の発症を予防しました。
キーワード: 家族性アルツハイマー病、ケルセチン配糖体、アロニア、記憶力、アミロイドβ42