イソケルシトリンは、腸のバリア機能を毒素から守る
出典: Food & Function 2024, 15, 295-309
https://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2023/FO/D3FO03319H
著者: Enhui Tang, Tong Hu, Zhaokang Jiang, Xiaojun Shen, Huan Lin, Haiyan Xian, Xinlan Wu
概要: 腸は栄養分を吸収するだけでなく、有害な菌や物質は吸収しない働きもあり、バリア機能と呼ばれます。体を正常に保つために、水際で外敵を防衛するのが腸のバリア機能です。今回の研究では、リポ多糖という細菌由来の毒素によるバリア機能の破壊を、イソケルシトリンが予防することが発見されました。なお、イソケルシトリンとは、ケルセチンに糖が1個結合した構造です。
マウスを4群に分け、以下の処置を行いました。1) 対照群としてイソケルシトリンも毒素も投与しない、2) イソケルシトリンは投与せず7日目に毒素を投与、3) 1~7日目にイソケルシトリン50 mg/kgを投与し7日目に毒素を投与、4) 1~7日目にイソケルシトリン100 mg/kg投与し7日目に毒素を投与。腸の内側には粘膜には絨毛(じゅうもう)と呼ばれる突起物があり、栄養分は取り入れて有害物をはじく選別をしており、バリア機能の実働部隊のような存在です。毒素を投与して6時間後の絨毛の長さは以下のとおりでした。1) 550 μm、2) 230 μm、3) 310 μm、4) 520 μm。毒素が絨毛を短くしてバリア機能を破壊していますが、イソケルシトリンが用量依存的に予防して高用量の4)では毒素の悪影響が殆どありませんでした。
絨毛と並んでバリア機能に重要な存在が、密着結合蛋白質です。隣り合う細胞の結合を強くして、有害物が通過するのを防ぐ役割を担います。4種類の密着結合蛋白質の発現を調べましたが、1)と2)を比べると極端に減少しており、毒素によるバリア機能の消失を物語っています。しかし、3)と4)では正常の1)に近いデータを得ています。例えばクローディンという密着結合蛋白質の1)における発現を1とした時の相対値は、2) 0.05、3) 1.1、4) 2.4でした。高用量のイソケルシトリンを投与した4)ではクローディンの発現が2.4倍になるため、毒素が来てもびくともしない状態でした。
2)で見られた、毒素がもたらしたバリア機能の破壊には、腸の炎症が根底にありました。実験に用いたリポ多糖という毒素は、腸細胞の表面にあるTLR4という蛋白質に結合して、MyD88という蛋白質を周辺から動員します。集って来たMyD88がNF-κBという別の蛋白質を活性化して、炎症が起こります。この一連の流れをTLR4/MyD88/NF-κBシグナル伝達と呼びますが、最終的に活性化されたNF-κBの発現状況は1) を1した相対量として、2) 1.8、3) 1.1、4) 0.8でした。予めイソケルシトリンを投与しておけば、TLR4/MyD88/NF-κBを抑制しているので、すなわち、炎症が起こりにくい状態が作られます。その結果、毒素による炎症が予防できるので、バリア機能を毒素から守ることが出来ました。
キーワード: 腸、バリア機能、イソケルシトリン、絨毛、密着結合蛋白質、TLR4/MyD88/NF-κB