ケルセチンはフェロトーシスを阻害して脳梗塞を軽減する・前編
出典: European Journal of Pharmacology 2024, 963, 176264
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0014299923007781
著者: Fengyan Zhao, Hengli Li, Yang Sun, Keyan Tang, Yantao Yang, Naihong Chen, Fang Liu
概要: 脳梗塞とは、脳の血管が詰まって血液が行き届かなくなり、脳組織が死滅した壊死状態になることです。意識障害・半身麻痺・言語障害・頭痛・めまい・嘔吐のような症状が現れます。また、脳梗塞を発症すると深刻な後遺症が残り、時には死に至ります。今回の研究では、ラットの脳梗塞をケルセチンが軽減することが発見され、その仕組みも解明されました。
ラットを開頭手術して、脳動脈を糸で縛って脳梗塞の状態を人工的に作りました。糸の縛りを取った後、頭を縫合して3群に分けました。1) 対照群として薬物投与なし、2) ケルセチン50 mg/kgを投与、3) 漢方薬である補陽還五湯(ほうよかんごとう)を12.8 g/kg投与。なお、補陽還五湯とは脳梗塞の後遺症の治療に用いられるため、効果の指標となります。また、これとは別に開頭手術と縫合のみ行い、脳動脈の縛りを行わないラットを4)として用意しました。手術そのものが結果に影響する可能性を排除するためです。従って4)も対照としての位置付けにあるため、薬物の投与は行いません。4日間の投与期間を経て、各ラットの脳の状態を調べました。その結果、脳全体の中で脳梗塞の占める割合は、1) 34%、2) 11%、3) 8%、4) 0%でした。1)と4)とを比べると、脳梗塞の原因は脳動脈の縛りであって、手術そのものは脳梗塞を誘発しないことが分かりました。1)~3)を比べると、脳梗塞はケルセチンもしくは補陽還五湯が大幅に軽減しました。補陽還五湯の効果は予想できていましたので、実験が適切であったことと、ケルセチンは既存の漢方薬と同程度の効果がありました。ちなみに、補陽還五湯にはケルセチンが含まれており、有効成分がケルセチンであることを示唆しました。
次に、ラットの脳で起きた変化を調べたところ、GPX4とACSL4という2種類の蛋白質に顕著な違いを見出しました。4)におけるGPX4の発現量を1.0とした時の相対比は1) 0.5、2) 1.0、3) 1.1となり、脳梗塞で発現が低下します。一方、ACSL4は反対の挙動を示して、4)における1.0に対して1) 11、2) 5.5、3) 4.9でした。GPX4は過酸化脂質を無毒化する酵素で、不足すると過酸化脂質が増え続けて、最後にはフェロトーシスという細胞死を誘導することが知られています。従って、GPX4はフェロトーシスの抑制物質と見なすことができます。また、逆の挙動をしたACSL4はフェロトーシスが起きると発現が上昇することが知られています。
フェロトーシスとは鉄が媒介する細胞死です。鉄は体に必須不可欠な成分ですが、過剰に存在すると悪影響を与え、その代表例がフェロトーシスです。そこで、脳組織の鉄の濃度を調べたことろ、1) 150 μM、2) 90 μM、3) 80 μM、4) 120 μMで、脳梗塞と関係していました。
以上の結果、脳動脈の縛りによる脳梗塞はケルセチンと補陽還五湯が軽減しました。また、脳梗塞の正体はフェロトーシスではないかという仮説も立てられました。後編に続く
キーワード: 脳梗塞、ケルセチン、補陽還五湯、GPX4、ACSL4、フェロトーシス