ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンはフェロトーシスを阻害して脳梗塞を軽減する・後編

出典: European Journal of Pharmacology 2024, 963, 176264

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0014299923007781

著者: Fengyan Zhao, Hengli Li, Yang Sun, Keyan Tang, Yantao Yang, Naihong Chen, Fang Liu

 

前編より続く

概要: ラットの脳動脈を縛って誘発した脳梗塞の正体がフェロトーシスであるか検証すべく、細胞実験を行いました。脳には海馬という部位がありますが、マウスの海馬の神経を構成するHT22という神経細胞を用いて、ケルセチンがフェロトーシスに与える影響を調べました。

まず、HT22細胞にエラスチンというフェロトーシス開始物質を作用させました。フェロトーシスが誘導された結果、先ほどのラットの脳で発現が低下したGPX4は、約半分に減少しました。そこへケルセチンを添加すると、半減したGPX4の量が元に戻りました。一方、ラットで逆の挙動を示したACSL4はエラスチンが1.5倍に増やし、その後のケルセチンの添加で元に戻りました。エラスチンがフェロトーシスを誘導することは既知事実であり、GPX4とACSL4の増減で裏付けも取れています。ケルセチンはエラスチンの働きを打消しているので、フェロトーシスを抑制していることが明らかになりました。従って、先ほどの仮説は正しいことが証明され、脳細胞のフェロトーシスが脳組織の壊死となり、これが脳梗塞の正体でした。ケルセチンは(補陽還五湯も)フェロトーシスを阻害するため、脳動脈の縛りに起因する脳梗塞を軽減しました。

次に、ケルセチンがフェロトーシスを阻害する仕組みを解明するための実験を行いました。GPX4とACSL4以外に、ケルセチンによってHT22細胞で変化した物質がないか、詳しく調べました。その結果、Nrf2という物質に行き当たりました。Nrf2は転写因子と呼ばれる種類の蛋白質で、DNAに結合して遺伝子の発現を制御します。従って、DNAが存在する核に入って働きますが、ケルセチンはNrf2がHT22細胞の核へ移行するのを促進しました。また、Nrf2の発現もケルセチンが増大することが分かりました。

続いて、Nrf2とフェロトーシスとの関連を調べる実験を行いました。先ほどのHT22細胞のフェロトーシスをエラスチンで誘導する実験を、今度はNrf2阻害剤の存在下で行いました。Nrf2阻害剤が共存したHT22細胞では、ケルセチンの効果が完全に打消されました。すなわち、エラスチン・ケルセチン・Nrf2阻害剤を同時に作用させたHT22細胞は、GPX4は半減したまま、ACSL4は1.5倍のままで変化しませんでした。Nrf2が阻害されたため、ケルセチンによるNrf2の核移行が不可能となり、フェロトーシスの抑制効果が喪失したと考えられます。

これで全ての仕組みが解明されました。ケルセチンはまずNrf2を増やし、次にNrf2を核移行します。Nrf2を活性化した結果、フェロトーシスが抑制され、更には脳梗塞を軽減します。

キーワード: HT22細胞、エラスチン、GPX4、ACSL4、フェロトーシス、ケルセチン、Nrf2