ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

微小粒子状物質PM2.5による肺組織の線維化は、ケルセチンが改善する

出典: PeerJ 2024, 12, e16703

https://peerj.com/articles/16703/

著者: Shibin Ding, Jinjin Jiang, Yang Li

 

概要: PM2.5とは、大気中に浮遊している2.5 μm以下の小さな粒子のことで、特定の化学物質ではありません。髪の毛の太さの約1/30程度の微粒子ですので、吸い込むと肺に悪影響を及ぼします。PM2.5の主な発生源は、自動車の排ガスと鉱山の粉塵です。今回の研究では、PM2.5を吸い込んだマウスの肺の損傷をケルセチンが軽減することが発見され、その仕組みも解明されました。

PM2.5による肺損傷は、先月述べたフェロトーシスの関与が知られており、フェロトーシスを阻害するケルセチンに着目しました。マウスを4群に分け、60日間、以下の処置を行いました。1) 比較対照として何もしない、2) 2日置きに1回(計20回) PM2.5を吸い込ませる、3) PM2.5を吸い込ませ、ケルセチン50 mg/kgを毎日投与、4) PM2.5を吸い込ませ、ケルセチン100 mg/kgを毎日投与。1)と2)を比較すると、PM2.5は肺組織に肺損傷を誘発し、特に線維化と炎症が目立ちました。線維化とは組織中に線維成分が増加して、臓器が硬くなる現象です。肺は風船にイメージされるように、膨らみと収縮とを繰り返しているため、硬くなると肺機能の低下に直結します。従って、肺の線維化は非常に厄介な損傷と言えますが、ケルセチンが良好に改善しました。肺線維化の深刻度を0~8で点数化すると、正常マウスである1)は平均1.0でしたが、2)は5.0まで上昇していました。一方、3)は3.5、4)は3.0とケルセチンが用量依存的に線維化を軽減しました。なお、線維化して硬くなるのは、コラーゲンという蛋白質が組織に蓄積するためです。肺組織中のコラーゲン量にも、2) >> 3) > 4) > 1)という傾向が見られました。

次に、肺組織におけるフェロトーシスの状況を調べました。前回と同様に、GPX4とACSL4という2種類の指標で評価しました。前者はフェロトーシスの抑制物質で、後者が促進物質です。1)におけるGPX4の発現量を1.0とした時の相対比は2) 0.5、3) 0.7、4) 1.0となり、PM2.5が発現低下を招きましたが、ケルセチンによって回復しました。特に4)では正常と同等に回復しています。ACSL4の発現量は1) 1.0、2) 3.0、3) 2.5、4) 1.8で、ここでもケルセチンによる改善効果が分かります。前回は、ケルセチンがNrf2という転写因子を活性化してフェロトーシスを抑制しましたが、今回も似たような結果が得られています。肺組織におけるNrf2の発現量を調べたところ、1) 1.0、2) 0.6、3) 1.0、4) 1.5でした。驚くべきことに、PM2.5に暴露したのも拘わらず、3)では1)と同等のNrf2の発現量で4)は1)を凌駕しました。

前回と今回とを比べると、脳梗塞とPM2.5による肺損傷の違いこそあれ、ケルセチンによる改善効果がフェロトーシスの抑制という点で一致していました。しかも、フェロトーシスを抑制する仕組みがNrf2の活性化で一緒だった点が、非常に興味深いと言えましょう。

キーワード: PM2.5、肺損傷、線維化、ケルセチン、GPX4、ACSL4、フェロトーシス、Nrf2