ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンは細胞老化を減少し、腸内細菌叢を整えて肺線維症を軽減する

出典: Naunyn-Schmiedeberg’s Archives of Pharmacology 2024, 397, 4809–4822

https://link.springer.com/article/10.1007/s00210-023-02913-8

著者: Wenjuan Wu, Xinhui Wu, Lingxiao Qiu, Ruijie Wan, Xiaoming Zhu, Song Chen, Xinying Yang, Xueya Liu, Jizhen Wu

 

概要: 肺線維症とは、肺胞(肺でガス交換を担う場所)の壁が線維化して、硬くなる病気です。肺胞の周囲が硬くなると肺が膨らみ難くなるため、肺線維症は呼吸困難を伴います。また、診断後に治療をしないと生存期間が2~3年となる恐ろしい病気です。今回の研究では、ラットの肺線維症をケルセチンが改善することが発見され、その仕組みも解明されました。

ブレオマイシンという癌の薬がありますが、この薬に最も多い副作用は肺線維症です。ブレオマイシンを過剰に投与したラットは肺線維症を誘発することが知られており、実験に用いられました。実際、ブレオマイシンで人工的に肺線維症にすると、正常なラットと比べて肺の損傷が進行していました。ところがブレオマイシンの後にケルセチンを投与すると、損傷は抑制され、ケルセチンによる改善が確認されました。肺胞の周囲が硬くなるのは、コラーゲンという蛋白質が組織に蓄積するためであり、肺線維症の特徴でもあります。正常なラットの肺におけるコラーゲンの量を1とすると、ブレオマイシンの投与で4.5まで上昇しましたが、ケルセチン75 mg/kgの投与で3.8、100 mg/kgの投与で1.9と用量依存的にコラーゲンを減少できました。また、ブレオマイシンは肺組織を構成する細胞を老化させました。老化の指標であるp16という遺伝子を持った細胞を検出して、細胞老化の度合を調べました。正常なラットでのp16を1とすると、ブレオマイシンは3.3に上昇して細胞老化を誘発しました。ケルセチン75 mg/kgの投与で2.6、100 mg/kgの投与で1.4とp16を持つ細胞が減少しており、ケルセチンの効果を物語っています。

次に、各ラットの腸内細菌叢を調べました。先月述べた糖尿病性網膜症の話題にも登場したように、腸内細菌叢は様々な病気と関連しています。今回の実験では、善玉菌とされるアッカーマンシア属をケルセチンが大幅に増やしました。アッカーマンシア属と肺線維症との関連は、これから解明されるべき課題です。よって、今回は「ケルセチンによる肺線維症の改善には、アッカーマンシア属の増大が伴った」という事実の発見に留まります。

一方、細胞の老化と肺線維症との関連は、実験で裏付けが取れました。ラット由来の肺胞上皮細胞であるRLE-6TNをブレオマイシンで刺激して、肺線維症の細胞モデルとしました。ブレオマイシンで処置する前のRLE-6TNは、先程のp16老化遺伝子を持った細胞は3%程度でした。5 μMの濃度でブレオマイシンを添加すると、p16の割合は68%に急上昇しました。ところが、その後5 μMのケルセチン処置で21%に減少し、25 μMのケルセチンは9%に減少しました。従って、マウスで見られた現象が細胞でも同様に観察され、ケルセチンが肺線維症を改善した仕組みの一部が明らかになりました。

キーワード: 肺線維症、ケルセチン、コラーゲン、細胞老化、p16、腸内細菌叢、肺胞上皮細胞