ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

妊娠中のケルセチン摂取が先天的な記憶障害を予防する

出典: Toxicology and Applied Pharmacology 2024, 483, 116830

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0041008X24000280

著者: Hossein Abbasi, Sina Ghavami-kia, Nahid Davoodian, Najmeh Davoodian

 

概要: 先天的な認知障害は、遺伝的な要因の他に、妊娠中に罹った病気に起因する場合もあります。今回の研究では、妊娠中に毒素を投与したラットから生まれた子ラットの認知障害を、ケルセチンが予防することが示されました。

妊娠したラット24匹を12匹ずつ2群に分け、片方は、妊娠期間中に毎日ケルセチン50 mg/kgを投与します。もう片方にはケルセチンを投与せず、比較とします。お腹の子の脳が作られる時期は、ラットの場合、妊娠15~16日目となるので、この両日に感染/非感染の区別を行います。両群とも更に2分して、片方には大腸菌が作る毒素0.5 mg/kgを投与し、もう片方は感染させません。従って、24匹は6匹ずつ4つのグループに分けられます。1) ケルセチン非投与で感染なし、2) ケルセチン非投与で感染あり、3) ケルセチン投与で感染なし、4) ケルセチン投与で感染あり。ちなみに、大腸菌の毒素に感染したラットは2日ほど病気に苦しみますが、その後、自然に回復して出産も無事できました。生まれた子ラットを各グループから10匹ずつ、オスだけを選別しました。なお、1匹から複数の子ラットが生まれるので、母ラットが1群6匹でも10匹のオスを選ぶことは可能です。

さて、子ラットが生後60日に達した際に、Y字迷路試験という記憶力のテストを行いました。マウスが入れる箱(長さ50 cm、幅10 cm、高さ23 cm)を3個用意して、Y字につなぎます。接合部にマウスを入れ、8分間自由に行動させた後、試験を開始します。マウスが餌を求める際には、未知の場所に入る習性を利用する実験です。3回連続して異なった箱に入った回数を数えます。この回数の割合が多い程、前に入った箱がどれかを覚えていますから、短期的な記憶を評価する指標になります。結果は、1) 39%、2) 18%、3) 37%、4) 31%でした。1)と2)を比べると、母体への毒素感染が、胎児の記憶障害を誘発したことが分かります。一方、3)と4)を比べると記憶力の落ち込みは少なく、感染の影響がほとんど見られません。2)と4)を比べると、感染しても記憶力は大きく異なり、ケルセチンによる記憶障害の予防効果が端的に示されました。

次に、脳の中で記憶を担う海馬と前頭前皮質という2つの場所における、炎症誘導物質を調べました。海馬と前頭前皮質の両方の場所で、炎症誘導物質の量は2) >> 4) > 1) = 3)でした。従って、記憶力の低下は、脳に蓄積した炎症誘導物質が原因でした。胎児の脳が発達する時期に毒素に感染すると、子ラットの海馬と前頭前皮質に炎症を起こし、これが先天的な記憶障害につながりました。

妊娠中は病気にかからないことが一番ですが、万一のために、ケルセチンを多く含む玉ねぎやリンゴを食べることをお勧めします。

キーワード: 記憶障害、妊娠、ケルセチン、海馬、前頭前皮質、炎症誘導物質