ケルセチンとカテキンで急性アルコール性肝障害に対抗する
出典: Journal of Advanced Research 2024, 57, in press
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2090123224000432
著者: Hui Guan, Wenyuan Zhang, Hui Liu, Yang Jiang, Feng Li, Dan Wang, Yang Liu, Fatao He, Maoyu Wu, Geoffrey Ivan Neil Waterhouse, Dongxiao Sun-Waterhouse, Dapeng Li
概要: アルコール性肝障害とは、過度の飲酒が原因で、肝組織に脂肪が蓄積して炎症を起こす病気です。日本酒に換算して三合以上毎日飲み続けると、約二割がアルコール性肝障害を発症すると言われています。今回の研究では、ケルセチンとカテキンの組合せが、ラットの急性アルコール性肝障害を予防することが発見されました。カテキンとは、緑茶に多く含まれるケルセチンの仲間です。
ラットを4つのグループに分け、1~14日目に以下の処置を行いました。1) 対照として薬物投与なし、2) ケルセチン50 mg/kgの投与、3) カテキン50 mg/kgの投与、4) ケルセチン25 mg/kgとカテキン25 mg/kgの投与。15~16日目には、50%アルコール水5 g/kgを12時間置きに3回飲ませ大量飲酒の状態にした後、人間の健康診断と同様の血液検査にて肝機能を調べました。肝機能の指標である血中のALTとASTは1)で大幅に上昇しており、大量飲酒直後の肝機能の低下を示しました。ALTの正常値は40~50 U/Lですが、1)では85 U/Lに上昇しました。一方2)~4)では、大量飲酒にも拘わらず、ALT値が 70, 62, 55 U/Lに抑制され肝臓を保護しました。ケルセチンとカテキン単独よりも両者を組合せた方が効果的でしたが、同様の傾向はASTにも見られました。
次に、肝臓に起きた変化を調べました。大量のアルコールを摂取した直後の変化ですので、解毒作用に関連するNrf2と炎症を誘導するIKKαという2種類の蛋白質を作る遺伝子発現の変化を調べました。まずNrf2ですが、正常なラット肝臓での遺伝子発現を1.0とすると、1) 0.7, 2) 0.8, 3) 0.7, 4) 1.2でした。ケルセチンもカテキンも単独ではアルコールの解毒は殆ど出来ませんが、組合せると解毒作用を獲得できたことを意味します。IKKαでも正常な発現の1.0に対して、1) 1.5, 2) 0.8, 3) 1.0, 4) 0.6を記録し、アルコールによる炎症の誘導と、組合せの炎症抑制が分かりました。
ここで「ケルセチンとカテキンとを組合せると、Nrf2を活性化しIKKαを阻害する」という仮説が立てられたので、この概念を細胞実験で検証しました。アルコールによって肝臓で過酸化水素が増加したことに着目して、ヒトの肝細胞を過酸化水素で刺激しました。予想通り、肝細胞においても過酸化水素はNrf2の発現が減少し、IKKαの発現が上昇する、マウスにおけるアルコールと同様の挙動を示しました。続いて、ケルセチンを添加した肝細胞・カテキンを添加した肝細胞・両者の組合せを添加した肝細胞のそれぞれを過酸化水素で刺激しました。Nrf2の発現は、ケルセチンもカテキンも単独では変化が僅かでしたが、組合せで大幅に上昇して、マウスと全く同じ結果を細胞でも再現出来ました。IKKαも、組合せが顕著に発現を抑制して、見事に仮説が実証されました。
肝臓は沈黙の臓器と言われています。肝臓に異常があっても自覚症状が出にくく、自覚症状を訴える頃には病気は相当に進行していることを意味します。普段からお酒は控えめにして、ケルセチンとカテキンは多く摂って、肝臓をいたわりましょう。
キーワード: アルコール性肝障害、ケルセチン、カテキン、IKKα、Nrf2、炎症