ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

適切なケルセチンの脳送達で、アルツハイマー病の既存薬を上回る薬効を実現する

出典: AAPS PharmSciTech 2024, 25, 30

https://link.springer.com/article/10.1208/s12249-024-02736-7

著者: Devika Sonawane, Varsha Pokharkar

 

概要: アルツハイマー病の患者さんの脳には、斑点が所々に見られます。老人斑は、脳神経を損傷するアミロイドβという蛋白質の塊です。脳神経が損傷すると、記憶力の低下に始まり、ひいては日常生活に支障をきたすほど認知機能障害を招きます。従って、アルツハイマー病を薬で治療するには、脳に薬物を確実に届ける必要があります。今回の研究では、ケルセチンを脳に届ける手法が確立され、既存薬を上回る治療効果を達成できました。

ケルセチンに限らず、脳に薬物を届けることは容易ではありません。栄養分は血液の循環で全身に届くので、薬物も同じように必要とする臓器に届けることができます。脳は特別に重要な場所ですから、本当に必要な物質だけを選別する血液脳関門という機能が存在し、薬物ははじかれてしまいます。そこで、血液脳関門を通過しない方法として、「鼻から脳」というルートを考案しました。ケルセチンを含む液体をラットの鼻腔内に注入すると、ゲル状に変化する製剤を設計しました。鼻腔内で形成したゲルからケルセチンが放出され、定常的に脳に送られる状態を作りました。

ラットを4群に分け、1) ゲル形成する液を鼻腔内投与、2) ゲル形成しない液を鼻腔内投与、3) ゲル形成しない液を尾に注射、4) ゲル形成しない液を経口投与(口から飲ませる)の方法でケルセチンを投与して脳内の濃度を比較しました。結果は、1) 183 ng/mL、2) 62 ng/mL、3) 75 ng/mL、4) 111 ng/mLとなり、鼻に注入して鼻でゲルを形成することが脳にケルセチンを届ける最適法でした。

ケルセチンを脳に送達する方法が確立できたので、いよいよアルツハイマー病に効くかを検証する実験に入りました。比較には、ドネペジルという27年間に渡る発売歴のアルツハイマー病の治療薬を用いました。有機スズという神経毒をラットに投与して、アルツハイマー病の状態にします。その後2週間に渡り、ゲル形成するケルセチン液の鼻腔内投与もしくはドネペジルの経口投与を行い、薬物処置をしない対照も設けました。投与期間の終了後、モリスの水迷路という空間的な記憶と学習能力を調べる実験を行いました。1カ所だけ浅い場所があるプールにて、マウスを泳がせる実験です。プールの水は濁っており、浅瀬の位置が見えず、周囲の景色から判断するしかありません。ラットには3日間の学習をさせ、浅瀬と周囲の景色を記憶させました。4日目を本試験に設定して、浅瀬に到達するまでの時間を図りました。正常ラットの13秒に対して、薬物非投与群は21秒を要しました。景色の記憶が不足していれば到達時間が余分にかかり、記憶障害の程度を示しています。ドネペジル投与群の到達時間は23秒であり、比較対照と変わらないどころか若干の悪化が見られました。有機スズは強力な毒であり、動物実験に用いられることは稀です。現に、既存薬のドネペジルを以てしても、改善できませんでした。ところがケルセチン群は17秒の到達時間で、改善効果を示しました。

以上の結果、鼻腔内のゲル形成にてケルセチンを適切に脳送達できれば、既存薬を上回るアルツハイマー病の改善効果が実現できました。

キーワード: アルツハイマー病、ケルセチン、鼻腔内投与、ゲル形成、脳送達、ドネペジル