緑膿菌の感染に伴う肺炎は、ケルセチンが軽減する
出典: Inflammopharmacology 2024, 32, 1059–1076
https://link.springer.com/article/10.1007/s10787-023-01416-5
著者: Xiaolei Jia, Mengdi Gu, Jiangqin Dai, Jue Wang, Yingying Zhang, Zheng Pang
概要: 緑膿菌は土壌や水中のあらゆる場所に生息し、時には人を含む動物の腸内にも存在します。健康な人は、緑膿菌に感染しても病気の発症は滅多にありません。しかし、免疫力が低下している人には肺炎を始めとする感染症を起こし、しばしば重症化を招きます。今回の研究では、緑膿菌が原因のマウスの肺炎をケルセチンが改善しました。
マウスを3グループに分け、1) 対照としてケルセチンなし、2) ケルセチン12.5 mg/kgの投与、3) ケルセチン50 mg/kgの投与を行った1時間後に、比較的病原性の高い緑膿菌を鼻に注入しました。1)は3日以内に80%のマウスが死亡して、緑膿菌の悪影響が直ちに現れました。2)では死亡率が80%が70%になっただけで、ほとんど1)と変わりませんでした。ところが、3)では翌日に20%の死亡がありましたが、残る80%は全てその後10日間生き続いて、生存率が大幅に改善されました。死亡したマウスの肺を調べたところ、炎症の進行が著しく、緑膿菌による肺炎が死因でした。また、肺中の緑膿菌の数は1)~3)間で差が見られず、ケルセチンによる生存率の改善は、緑膿菌を除去した結果ではないことが判明しました。では、ケルセチンの働きは何でしょうか?この疑問を解明する実験を、次に行いました。
肺組織の損傷を調べたところ、特に1)で好中球が増加しており、2)、3)の順に低下していました。好中球とは白血球の一種で、貪食機能を持つため細菌を食べて体を守る働きをします。逆に言うと、それだけ多くの好中球を必要とする位、肺炎が深刻と捉えることも出来ます。従って、全身の血液から集まる好中球 (好中球動員とも呼ばれます)が多いほど、炎症が重症です。好中球の中心酵素であるミエロペルオキシダーゼの活性を、肺組織で直接測定する方法と、気管支肺胞洗浄液検査という気道内に注入した生理食塩水を回収して間接的に調べる方法の2通りを試しました。直接法では、1)におけるミエロペルオキシダーゼ活性を1.0とすると、2)で0.5、3)で0.4となり、用量依存的に活性を低減しました。また、間接法でも同様の傾向が見られました。さらに、炎症性サイトカインという炎症の指標を3種類調べたところ、直接法と間接法の両方で、1) > 2) > 3)の結果が得られました。従って、緑膿菌の除去が否定されたケルセチンの役割は、炎症の軽減でした。
PI3K/AKT/NF-κBシグナル伝達経路という炎症を誘発する仕組みがあり、変形性関節症や喘息で観察例があります。PI3Kという蛋白質がリン酸化された結果、AKTという蛋白質がリン酸化され、リン酸化されたAKTが炎症の大元であるNF-κBを活性化する、一連の動きです。リン酸化されたPI3KとAKT、活性化されたNF-κBの全てが、1) > 2) > 3)の順に減少していました。実は、このPI3K/AKT/NF-κBの抑制は、遺伝子情報を元にコンピュータで予測されていました。今回のデータは、予測されたケルセチンが炎症を軽減する仕組みを、動物実験で確認したことを意味します。
キーワード: ケルセチン、緑膿菌、肺炎、好中球、ミエロペルオキシダーゼ、PI3K/AKT/NF-κB