ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

糖転移ルチンは、長時間のマスク着用による皮膚の不調を改善する

出典: Journal of Cosmetic Dermatology 2024, 23, 1734-1744

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jocd.16196

著者: Morgane De Tollenaere, Anaïs Durduret, Emilie Chapuis, Carole Lambert, Perrine Lemagnen, Jean Tiguemounine, Daniel Auriol, Amandine Scandolera, Romain Reynaud

 

概要: ケルセチンの類似物質の一つに、ルチンがあります。ケルセチンに2個の糖が結合した形です。このルチンを糖結合させる酵素で処理すると、さらに1~8個の糖が増えた混合物として糖転移ルチンが得られます。ケルセチンから見ると、糖転移ルチンは糖が3~10個結合した混合物となります。結合する糖の数が増えると、水に溶けにくいケルセチンやルチンの性質が変わり、水に溶けやすくなりました。今回の研究では、水に溶ける性質の糖転移ルチンをヒトの肌に適用しました。コロナ禍では長時間のマスク着用に付随する皮膚の不調がしばしば問題になりましたが、糖転移ルチンによる改善効果が、ヒト試験で実証されました。

肌が過敏で従ってマスクを着用すると異変を起こしやすく、しかも常時マスク着用を強いられる被験者を対象に試験が行われました。39.5±9.0歳の被験者19名を2群に分け、片方は1%の糖転移ルチンを含むクリームを顔に塗布しました。もう片方は比較対照として、糖転移ルチンを含まないクリームを使用しました。クリームの塗布は1日2回、4日間に渡って行われ、終了1日後と4日後に検査を行いました。また、それぞれの検査が始まる2時間前には、各人がマスクを着用しました。

1日後には、紅斑(こうはん)と呼ばれる皮膚が赤くなった部分を検査しました。紅斑は毛細血管が充血して起こる現象であり、しばしば炎症を伴います。肌が過敏だと容易に赤くなると言われますが、これが紅斑です。検査の結果、糖転移ルチン群の紅斑は、処置前と比べて23.1%減少しました。対照群では紅斑が11.1%増加しており、糖転移ルチンの有意性を示すデータが得られました。

4日後の検査は褐色斑(かっしょくはん)で、俗に「しみ」と呼ばれる部分の比較です。褐色斑は表皮に存在するメラニン色素が沈着するため、周囲の皮膚よりも茶色く見えます。従って、今回の試験では、マスクの着用による色素沈着を、糖転移ルチンが抑制するかを検証しています。糖転移ルチン群の褐色斑は処置前と比べて2.4%減少し、対照群では1.1%増加しました。

またアンケートで、クリームを塗ったことによる実感を調査しました。肌が快適になったと回答した被験者は、糖転移ルチン群の7割に対して、対照群では4割に留まりました。

以上の結果、長時間のマスク着用に伴う皮膚の不調を、糖転移ルチンが改善しました。顔の表面には水分が多いため、水に溶ける素材がよくなじむことは言うまでもありません。糖転移ルチンは水によく溶けるため、顔の表面にてルチンが有している抗炎症作用と色素沈着の抑制作用を十分に発揮しました。ケルセチンやルチンは、化粧品素材としても有用である可能性を秘めています。

キーワード: 糖転移ルチン、水溶性、ヒト試験、皮膚、マスク、紅斑、褐色斑