ケルセチンと乳酸菌との組合せで腸を健康にする
出典: Journal of Functional Foods 2024, 114, 106062
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1756464624000641
著者: Manuela D’Arrigo, Claudia Muscarà, Maria Sofia Molonia, Francesco Cimino, Teresa Gervasi
概要: 最近「腸活」という言葉をよく耳にしますが、腸内環境を整えると健康が増進する証拠が次々と明らかになっています。腸内環境を良くする食品は、大きく分けて2通りあります。一つはヨーグルトのような善玉菌を直接取り入れる方法で、もう一つはケルセチンのような腸内で善玉菌を増やす食品を取るやり方です。2通りの方法を組合せると、より効果的だと容易に想像できます。今回の研究では、ケルセチンや乳酸菌が外敵から腸を守る働きが、両者を組合せるとより強化されました。
腸は栄養分を吸収するだけでなく、有害な菌や物質は吸収しない働きもあり、バリア機能と呼ばれます。体を正常に保つために、水際で外敵を防衛するのが腸のバリア機能です。今回はCaco-2という細胞に大腸菌を作用して、バリア機能を低下する実験を行いました。余談ながら、Caco-2とは小腸の表面の性質、すなわち栄養分を吸収したりバリア機能を再現する細胞ですが、実は癌細胞です。腸の機能を簡便に調べる道具として、実験では重宝されている癌細胞です。バリア機能の指標には、Caco-2における経上皮電気抵抗とクローディン-1の2つを測定しました。
経上皮電気抵抗とは、細胞の上と下とで電気抵抗が生じる現象です。生体内では多くの有害物質がイオン化されて電荷を帯びていますので、電気抵抗で透過を困難にします。Caco-2に大腸菌を添加すると、経上皮電気抵抗が極端に低下して、バリア機能が弱まりました。乳酸菌は大腸菌がもたらした経上皮電気抵抗の低下を、半分程度にまで回復しました。ケルセチンと乳酸菌との組合せは、大腸菌が存在しない時のレベルにまで戻し、バリア機能が回復しました。Caco-2に加える順番は2通りあります。一つは、先に乳酸菌(もしくは組合せ)を加え大腸菌は後に加えて、バリア機能の低下を予防する実験です。もう一つは加える順番を逆にして、低下したバリア機能を治療する実験です。面白いことに、どちらでも効果がありましたが、予防する方が良好な結果でした。
クローディン-1とは、密着結合蛋白質というグループに属しており、隣り合う細胞の結合を強くする働きがあります。一つひとつのCaco-2がクローディン-1によって密着結合すれば、有害物の通過を防げますので、バリア機能の指標として適切です。まず治療効果の実験ですが、大腸菌がないCaco-2でのクローディン-1の量を1とすると、大腸菌を加えて0.8に低下しました。その後の乳酸菌の単独添加で1に回復し、組合せでは1.3を記録して、大腸菌が存在しても初期値を上回りました。予防効果の実験では、乳酸菌の単独が1.4、組合せが1.8となり、先程と同様に予防効果が勝りました。
以上の結果は、腸活に多大なヒントを与えてくれます。乳酸菌を多く含むヨーグルトとケルセチンを多く含むリンゴやブドウを組合せて食べると、バリア機能が増強され、大腸菌を始めとする外敵から体を守ります。フルーツヨーグルトこそが、最強の腸活に思えます。
キーワード: ケルセチン、乳酸菌、Caco-2、大腸菌、バリア機能、経上皮電気抵抗、クローディン-1