ミリセチンとケルセチンは、血栓症治療薬チカグレロルの血中濃度を高める
出典: Chemico-Biological Interactions 2024, 392, 110924
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S000927972400070X
著者: Jing Wang, Yingying Hu, Qingqing Li, Ya-nan Liu, Jingjing Lin, Ren-ai Xu
概要: 血液中には赤血球や白血球と並んで、血小板という第3の成分があります。軽い出血であれば直に止血するのは、血小板が集って(凝集と呼ばれています)傷口をふさぐためです。傷口の血小板凝集は必須不可欠ですが、血管内部での血小板凝集は、血栓と呼ばれる血液の塊を形成します。血栓は心筋梗塞・虚血性心疾患・脳卒中の原因となり危険です。今回の研究では、ケルセチンとその仲間のミリセチンが、血小板凝集の阻害薬であるチカグレロルの血中濃度を高めることが発見されました。
2010年の発売開始以来チカグレロルは、急性冠症候群の患者さんの血栓形成の防止に貢献しています。非常に優れた薬ですが、肝臓にて不活性体に変化(代謝と呼ばれています)しやすい欠点があります。そこで、共存するとチカグレロルの代謝を抑制する物質を探索しました。天然物を中心に全部で68種類の化合物を試したところ、最も抑制したのがミリセチンで、97%のチカグレロルが代謝されずに残りました。ケルセチンは2番目で、87%のチカグレロルが維持されました。ちなみに、ミリセチンはケルセチンと類似した構造を有し、両者ともフラボノールというグループに属します。
ラットを3つのグループに分け、以下の処置を行いました。1) チカグレロルのみ18 mg/kg投与、2) チカグレロル18 mg/kgとミリセチン50 mg/kgの同時投与、3) チカグレロル18 mg/kgとケルセチン30 mg/kgの同時投与。その後、一定の間隔を設けて採血して、チカグレロルの濃度を測定しました。口で飲んだチカグレロルは、腸で吸収され血液中に移行しますので、血中の濃度を知ることで挙動が明らかになります。まず1)ですが、血中のチカグレロル濃度は、投与直後から上昇して4時間後には1900 ng/mLに達しました。4時間後がピークで、その後は徐々に減少して、24時間後には完全に消失しました。2) は4時間後にピークを迎える点では1)と同様ですが、4時間後の最大濃度は3200 ng/mLでした。ピーク前の3時間後の濃度を比較すると、1)の1900 ng/mL に対して、2)では1900 ng/mL なり、濃度の違いが顕著でした。また、ピーク後の6時間後は、1)が1900 ng/mL で、2)は1900 ng/mLでした。 3)は少し変わった挙動を示し、ピークが2回ありました。第一のピークは2時間後で、その時の濃度は2500 ng/mLでした。2~3時間後には減少して底の1700 ng/mL を記録すると、再び上昇して5時間後には第二のピークである2900 ng/mL となりました。その後は右肩下がりに減少して、24時間後に完全消失した点は他と一緒です。以上のデータを総合的に解析した結果、ミリセチンはチカグレロルの血中存在量を単独投与時の1.6倍に向上し、ケルセチンは1.5倍に向上したと結論しました。チカグレロルの代謝を抑制したので、血中濃度が高まりました。
今回の研究ではチカグレロルの血中濃度のみを調べましたが、以前の連載でも述べたようにケルセチンの仲間にも血小板凝集抑制作用があります。チカグレロルの血中濃度を高めるだけでなく、血小板の凝集がより強く抑制することが期待され、今後の研究に展開が楽しみです。
キーワード: チカグレロル、代謝抑制、血中濃度、ミリセチン、ケルセチン