ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

加齢黄斑変性の原因となる網膜炎症は、ケルセチンが軽減する

出典: Inflammation 2024, 47, 1616–1633

https://link.springer.com/article/10.1007/s10753-024-01997-5

著者: Yue Zou, Junliang Jiang, Yunqin Li, Xinyi Ding, Fang Fang, Ling Chen

 

概要: 加齢黄斑変性とは、年齢を重ねるに従って、眼球にある網膜が劣化する現象です。網膜とは光を受け取る組織です。従って、加齢黄斑変性は失明につながる症状で、日本人の失明原因の第4位にランクされています。今回の研究では、加齢黄斑変性を進行させる網膜の炎症を、ケルセチンが抑制することが発見されました。

マウスを2群に分けて、片方には毎日ケルセチンを飲ませ、もう片方は飲ませずに3日間継続しました。その後、リポ多糖という細菌由来の毒素を投与して、炎症を誘発しました。その2日後に、網膜組織の状況を調べました。ケルセチン投与の有無で大きく違った点は、ミクログリアという細胞の型でした。ミクログリアとは神経に存在する細胞ですが、網膜は受け取った光の刺激を脳に伝達する視神経が集っていますので、当然ながら網膜にはミクログリアが多く存在します。ところでミクログリアには、正反対の性質を示す2種類の型があり、行ったり来たりしています。一つは炎症を誘導するM1型で、もう一つは炎症を抑制するM2型です。ケルセチンを投与したマウスの網膜から採取しらミクログリアは、炎症を誘導する遺伝子の発現が少なく、炎症抑制遺伝子の発現は多く、M2型に片寄っていました。この様なミクログリアがM2型に片寄る現象をM2極性化と呼びますが、反対にケルセチンを投与しないマウスではM1極性化が起こっていました。従って、リポ多糖はマウスの網膜に炎症を誘発しますが、予めケルセチンを投与しておけば、炎症が予防できることを意味します。

次に、網膜炎症と失明の関係を調べる実験をしました。網膜で光を感知する光受容細胞を培養します。この培養液に、1) 処置していないミクログリア、2) リポ多糖で処置してM1極性化したミクログリア、3) ケルセチンとリポ多糖で共処置してM2極性化したミクログリアをそれぞれ加えました。その後の光受容細胞の死を比較しました。光受容細胞の中には乳酸脱水素酵素というエネルギーの作り手がありますが、細胞が死滅すると外へ流出します。培養液中における乳酸脱水素酵素の量は、細胞死の指標となります。2)における光受容細胞の死は1)の4.3倍でしたが、3)では2.4倍に抑えられました。死滅して光受容細胞が少なくなると、網膜で光を受け取る能力が低下しますので、失明のリスクが高まります。この実験における、M1極性化したミクログリアによる光受容細胞の死滅は、網膜炎症が加齢黄斑変性を進行させた失明を、細胞でシミュレーションしたと言えます。しかし、ケルセチンで網膜の炎症を抑制すると、光受容細胞の死が半減しました。

加齢黄斑変性は典型的な老化現象ですので、避けることが出来ません。しかし、ケルセチンによって進行を遅らせ、失明は予防できる可能性を秘めた結果と言えましょう。普段からタマネギやリンゴなどケルセチンを多く含む食物をふんだんに摂って、網膜を炎症から守りましょう。

キーワード: ケルセチン、加齢黄斑変性、網膜、ミロクグリア、M1型/M2型、炎症、光受容細胞