ルチンの腸保護効果は、離乳したての子ブタを下痢から守る
出典: Journal of the Science of Food and Agriculture 2024, 104, 6262-6275
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jsfa.13456
著者: Longfei Ma, Binbin Zhou, Huijuan Liu, Shun Chen, Jiaqi Zhang, Tian Wang, Chao Wang
概要: 養豚業では子ブタを産む回転率を上げるべく、生後21~28日で離乳させ、母ブタは次の子ブタを産む側に移動します。子ブタが早期に離乳すると、成長の妨げになるだけでなく、下痢を誘発することが知られています。いわば人間の都合で、子ブタの下痢が増えるのが現状です。今回の研究では、ケルセチンに糖が2個結合したルチンが、離乳したばかりの子ブタの下痢を改善することが発見されました。
離乳した生後28日の子ブタを、2群に分けました。片方は通常の餌で飼育して比較対照とし、もう片方にはルチン500 mg/kgを添加した餌を与えました。毎朝、各々の子ブタの便を調べて、下痢の状態を点数化しました。線状や球状のような形が識別できる便であれば、点数を0とします。形が識別できても柔らかい便であれば、1点とします。固形部分と液状部分とが区別可能な便は、軽度な下痢として2とします。完全に液状の便であれば、重度な下痢として3点を付けます。従って、数値が大きい程、下痢の状態が深刻であることを意味します。投与14日目、すなわち生後42日の点数を比較しました。通常の餌の対照群の平均スコアが0.33±0.06であったのに対して、ルチン群では0.13±0.03でした。ルチンを添加した餌を摂取することで、下痢の症状が対照群と比べて大幅に軽減され、早期離乳に伴う下痢をルチンが改善しました。
次に、子ブタの盲腸に生息する細菌叢の変化を調べました。対照群と比べてルチン群では、ファーミキューテス門と呼ばれるグループに属する菌叢が増え、カンピロバクテロータ門の菌叢が減少していました。ファーミキューテス門には、乳酸菌を始めとする健康に良いとされる細菌が多く含まれています。対して、カンピロバクテロータ門は反対に作用するので、健康には好ましくない菌が中心です。腸のバリア機能が弱まると下痢を発症しますが、ファーミキューテス門はバリア機能を強化し、カンピロバクテロータ門は逆に弱めることが知られています。実際、バリア機能を担う蛋白質の発現でも、腸内細菌叢が関与している裏付けが取れました。密着結合蛋白質であるZO-1は腸組織を強固にしてバリア機能の寄与しますが、対照群での発現を1.0とすると、ルチン群では1.4に上昇していました。また、クローディン-1というZO-1と似た働きをする蛋白質も、対照群の1.0に対して、ルチン群では1.5を記録しました。
以上の結果、ルチンの作用が明確になりました。ルチンを継続的に摂取した子ブタは、まず腸内細菌叢が改善され、腸のバリア機能が高まり、更には下痢の改善へとつながりました。人間の勝手な都合で離乳を余儀なくされ、下痢になる気の毒な子ブタですが、その腸を守る強い味方こそがルチンです。
キーワード: 離乳、子ブタ、下痢、ルチン、腸内細菌叢、バリア機能