ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

アルツハイマー病の治療に有望な新規ケルセチン3糖体

出典: European Journal of Pharmacology 2024, 970, 176491

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0014299924001791

著者: Shuo Tan, Linmei Wu, Jiayi Liu, Zhaoyuan Wu, Qiang Cheng, Qiuhao Qu, Lianghao Zhu, Yizhu Yan, Hao Wu, Tie-jun Ling, Rui-tian Liu, Shigao Yang

 

概要: ケルセチンの類似物質の一つに、ルチンがあります。ケルセチンに2個の糖が結合した形です。このルチンにもう一つ糖が増えた新規物質が中国茶から発見され、YCC31と命名されました。ケルセチンから見ると、YCC31は糖が3個結合した構造です。YCC31にはアルツハイマー病の原因物質の産出を抑え、さらにはその働きも抑制することが、今回の研究で明らかになりました。

アミロイドβという蛋白質はアルツハイマー病の原因物質で、脳に蓄積すると脳神経を破壊して、記憶障害を始めとする諸症状が現れます。7PA2細胞というハムスターの卵巣細胞がありますが、アミロイドβの産出モデルとして実験に汎用されています。7PA2細胞に5 μMの濃度でYCC31を添加すると、アミロイドβの産出は無添加時の50%に減少しました。10 μMのYCC31では35%にまで減少して、YCC31がアミロイドβの産出を抑制することが分かりました。アミロイドβは、アミロイド前駆蛋白質という比較的大きな蛋白質から一部が切り出されて産出します。切り出しを担うのはβ-セクレターゼという酵素ですが、YCC31は7PA2細胞中のこの酵素活性を低下しました。YCC31はβ-セクレターゼに強く結合することが判明し、アミロイドβを切り出す能力を失ったと示唆されました。

次に、脳神経を構成する神経細胞を、アミロイドβで刺激しました。神経細胞の生存率は半分以下となり、アミロイドβが脳神経を破壊するアルツハイマー病の細胞シミュレーションと言えます。アミロイドβ/YCC31 1:8の比率で生存率は60%に回復し、1:16では75%に回復し、1:24では90%にまで回復しました。ところで神経細胞の死の本質は、アミロイドβがもたらす酸化ストレスと炎症です。YCC31による生存率の回復との関連性を知るべく、まず、酸化ストレスの要因である活性酸素種の量を比較しました。アミロイドβ/YCC31 1:0における活性酸素種を100%とすると、1:8で70%に減少し、1:24では55%に減少して、生存率の回復と良好に関連していました。活性酸素種は体内の組織を損傷する主要因ですので、これを取除いて細胞死が減少したのは、ある意味当然です。次に炎症の指標であるTNF-αという物質を調べました。TNF-αが多い程、炎症が進行しています。アミロイドβ/YCC31 1:0にてTNF-αは660 pg/mLでしたが、1:8で580 pg/mLに減少し、1:24では420 pg/mLに減少しました。ちなみに1:24における420 pg/mLとは、アミロイドβを作用しない正常な神経細胞と同等なTNF-αレベルです。従って、YCC31は酸化ストレスと炎症の両方を軽減して、生存率を回復しました。

以上の結果は、YCC31の有望さを端的に示しています。YCC31はアルツハイマー病の原因となるアミロイドβの生成を抑制した上、アミロイドβによる神経細胞の死を減少しました。前者がアルツハイマー病の予防効果で、後者が治療効果を示唆しています。

キーワード: YCC31、アルツハイマー病、アミロイドβ、β-セクレターゼ、神経細胞、酸化ストレス、炎症