ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ルチンの抗炎症作用と抗酸化作用は、多発性硬化症を改善する

出典: Inflammopharmacology 2024, 32, 1295–1315

https://link.springer.com/article/10.1007/s10787-024-01442-x

著者: Mariam A. Nicola, Abdelraheim H. Attaai, Mahmoud H. Abdel-Raheem, Anber F. Mohammed, Yasmin F. Abu-Elhassan

 

概要: 多発性硬化症とは、自己の神経を異物と間違えて認識して免疫系が攻撃する、自己免疫疾患の一種です。神経を包み込む髄鞘(ずいしょう)という組織が炎症を起こしますが、広範囲であるため「多発性」であり、結果として組織が硬くなるため「硬化症」と呼ばれます。特に脳神経を包む髄鞘に炎症が起きると、運動麻痺や感覚障害の症状を呈します。今回の研究では、ケルセチンに糖が2個結合したルチンが、マウスを用いる実験で多発性硬化症を軽減しました。

クプリゾンという薬物はある種の白血球を活性化して、髄鞘を破壊することが知られています。従って、クプリゾンを投与したマウスは、多発性硬化症の動物モデルとして実験に汎用されています。実際、レーザー光を5分間当てて光の遮断回数を数える実験を行った所、正常マウスの88回に対して、39回まで極端に低下しました。光を遮断するのはマウスが体を動かして起こるので、回数が低い程、歩行障害が大きいことを意味します。ところがクプリゾンと同時に100 mg/kgのルチンを投与すると、正常とほぼ同等の87回となり、多発性硬化症による歩行障害を完全に克服しました。クプリゾンによる多発性硬化症は、歩行障害だけでなくマウスの握力も低下しました。前脚で水平な金属棒にぶら下がったマウスが、これ以上我慢できなくなって下に落ちるまでの時間を測りました。ぶら下がりの時間が短くなれば、握力が低下している指標となります。結果は、正常マウスの2.8秒、多発性硬化症の0.8秒に対して、ルチンの投与で2.7秒に回復しました。歩行障害に加えて、握力の低下も正常に戻し、ルチンによる多発性硬化症の改善効果が示されました。

次に、ルチンの改善効果の根底を知るべく、脳の中身を調べました。炎症を誘導するTHF-αという物質は、正常マウスで0.3 ng/g、クプリゾンを投与した多発性硬化症マウスで2.0 ng/gでしたが、ルチンの投与で0.7 ng/gにまで減少しました。また、体内の脂肪が酸化的な損傷を受けるとマロンジアルデヒドという残骸が生じますが、これは酸化ストレスの指標となり、数値の大きさが酸化ストレスの程度を示します。脳内のマロンジアルデヒド量は、正常マウスで51 nmol/gのところ、多発性硬化症で86 nmol/gになりました。ルチンの投与では64 nmol/g に下がりました。従って、クプリゾンによる髄鞘の破壊は、脳に炎症と酸化ストレスをもたらします。その結果、歩行障害と握力の低下が症状として現れました。ルチンには抗炎症と抗酸化作用があるので、脳内の炎症と酸化ストレスを軽減して、マウスの多発性硬化症を改善しました。

多発性硬化症は難病に指定されており、治療が困難な病気ですが、ルチンが希望の光を与えました。

キーワード: 多発性硬化症、髄鞘、クプリゾン、ルチン、歩行障害、握力、炎症、酸化ストレス