イソラムネチンは、熱中症に伴う肝損傷を予防する
出典: Scientific Reports 2024, 14, 7476
https://www.nature.com/articles/s41598-024-57852-y
著者: Xinyue Yang, Hongwei Wang, Caifu Shen, Xiang Dong, Jiajia Li, Jiangwei Liu
概要: 毎年夏になると、盛んに熱中症対策が呼びかけられます。暑い環境で体温の調節が出来なくなるのが熱中症です。主な症状はけいれん・頭痛・めまいですが、重度であれば、肝臓の損傷まで起こります。今回の研究では、ケルセチンが体内で変化して作られるイソラムネチンという物質が、熱中症に起因する肝損傷を予防することが発見されました。
ラットを気温40℃の場所に晒して、重度の熱中症を誘発しました。その結果、肝臓組織の炎症と損傷が起こりました。健康診断で検査する血液中のALTとASTも、上昇しました。本来ALTやASTは肝臓に存在してアミノ酸代謝酵素としての働きをする筈ですが、肝機能が低下すると血液に流れ出します。従って、血中のALTとAST濃度の上昇は、肝機能低下の指標です。
ところが、1週間に渡ってイソラムネチンを予め投与したラットは、その後40℃に晒しても、肝臓の損傷が予防できました。面白いことに、イソラムネチンの用量を25, 50, 100 mg/kgと増やすにつれて、肝臓の炎症が軽くなりました。炎症を誘導する因子であり、各組織の炎症の度合いとなるインターロイキン-1βを測定したところ、正常ラットの肝臓では4.3 pg/mLでした。重度の熱中症のラットでは27.0 pg/mLに上昇していましたが、イソラムネチンの前投与で23.8, 19.7, 14.8 pg/mLと用量に応じた炎症の軽減効果が見られました。また、肝機能の指標であるALTの濃度は、正常の48.2 U/Lに対して、重度の熱中症のラットでは105.1 U/Lに上昇していました。イソラムネチンの前投与は、ALT濃度を94.8, 84.1, 71.4 U/Lと用量に応じて低下しており、顕著に肝機能の悪化を予防しています。
次に、肝臓中の熱ショック蛋白質の発現を比較しました。熱ショック蛋白質とは、組織に熱を加えた時に発現して、熱による変性を防止して恒常性を維持する働きをします。ゆえに、正確には「熱ショックを和らげる蛋白質」と呼ぶべきかも知れません。正常ラットでの発現量を0.25とした時の相対量は、重度の熱中症で0.45となり、高温下で熱ショック蛋白質が増えることを実証しました。イソラムネチンの前投与で更に増え続き、0.51, 0.59, 0.63 と用量に応じて上昇しました。この傾向は、先程のインターロイキン-1βやALTのように、熱中症で悪化した数値をイソラムネチンが改善したというデータではありません。正常の0.25を0.45に増やしただけでは熱ショック蛋白質の働きが不十分で、肝臓が炎症を起こし、肝機能が低下したと解釈できます。イソラムネチンの前投与によってより多くの熱ショック蛋白質を発現できるようになった結果、予防効果が出現しました。
熱中症対策としてよく言われる、エアコンの活用・直射日光を避ける・水分の補給に加えて、ケルセチンを多く含む玉ねぎやリンゴを普段から摂ることも提案します。ケルセチンは体内でイソラムネチンに変わりますので、炎症予防はバッチリです。
キーワード: イソラムネチン、熱中症、肝臓、炎症、肝機能、熱ショック蛋白質