ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ルチンによるループス腎炎の改善

出典: Chemico-Biological Interactions 2024, 394, 110972

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0009279724001182

著者: Tongtong Yi, Wei Zhang, Ying Hua, Xingpan Xin, Zhenyu Wu, Ying Li, Chengping Wen, Yongsheng Fan, Jinjun Ji, Li Xu

 

概要: 全身性エリテマトーデスは自己免疫疾患の一種で、20~40代の女性に多い免疫系の異常です。本来、免疫とは異物を排除する働きですが、自分自身を異物と認識して攻撃するので自己免疫疾患と呼ばれます。全身性エリテマトーデスの患者さんの約半数は腎臓に障害を併発しており、総称してループス腎炎と呼ばれています。ループス腎炎が悪化すると時には死に至りますが、適切な治療法がないのが現状です。今回の研究では、ケルセチンに糖が2個結合したルチンが、ループス腎炎を改善することが発見されました。

ヒトの全身性エリテマトーデスと非常に似た症状を示す、MRL/lprと呼ばれるマウスを用いて実験を行いました。このMRL/lprマウスが16~20週齢に到達すると、ループス腎炎を自然発症することが知られています。そこで、8週齢のMRL/lprマウスを2群に分け、片方は8~18週齢の10週間にルチン50 mg/kgを毎日投与しました。もう片方は比較対照として、この間にルチンの投与を行いません。そして、18週齢時点での腎組織の違いを比較して、ルチンの影響を調べました。

まず、ルチンを飲まない方のマウスですが、自然発症したループス腎炎の特徴が顕著に現れました。すなわち、腎臓の糸球体(毛細血管が糸の球のようになっている)なる血液を沪し取って尿を作る組織は、硬くなっていました。糸球体から排出された尿の水分を再吸収する、尿細管という組織は炎症と損傷が進行していました。また、腎臓内の血管にも損傷が目立ちました。一方、ルチンを投与すると、糸球体の硬さ、尿細管や血管の損傷は、半分~1/3程度に軽減されていました。従って、8~18週齢にルチンを投与すると、自然発症するループス腎炎の症状を軽くする効果を認めました。

次に、腎臓中でPPARγという蛋白質が陽性である領域を調べました。ルチン非投与群では20%程度が陽性でしたが、ルチン投与群では40%に増えていました。実は、PPARγはループス腎炎の進行を抑制する因子として、最近注目されています。このPPARγをルチンが約2倍に増やしたのですから、ループス腎炎の軽減効果の本質ではないかと考えられます。

そこで、この仮説を検証すべく、免疫を担うT細胞を用いる実験を行いました。T細胞を細菌の毒素で刺激して炎症を誘発すると、PPARγは0.3倍に減少しました。そこへルチンを40 μg/mLの濃度で添加すると、PPARγは元の0.6倍になりました。元の0.6倍ということは、毒素で刺激した時の2倍ですので、マウス実験時におけるルチンがPPARγを2倍にした結果と、良好に一致しています。

ループス腎炎の患者さんのデータを調べたところ、腎臓におけるPPARγの遺伝子は正常と比べて大幅に発現が増大していました。しかし、MRL/lprマウスの実験では、PPARγは減少しています。遺伝子は生命の設計図とよく言われますが、設計図どおりにならないのが病気たる所以です。そこを設計図どおりにPPARγを増やしたのがルチンであり、ループス腎炎の改善の仕組みと言えましょう。

キーワード: ルチン、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、MRL/lprマウス、PPARγ、T細胞