ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンは何故うつ病に効くのか・その2: 海馬のマスト細胞との関係

出典: Inflammation Research 2024, 73, in press

https://link.springer.com/article/10.1007/s00011-024-01876-7

著者: Pan Su, Zibo Li, Xiangli Yan, Baoying Wang, Ming Bai, Yucheng Li, Erping Xu

 

概要: ケルセチンがうつ病に効く仕組みの解明法として、脳の内部にある海馬という部分に着目した研究が行われました。膨大な脳の働きの中でも、海馬は記憶を担っています。今回の研究では、ケルセチンとケンフェロール(構造も性質もケルセチンとよく似た物質)が、うつ病を予防することが発見され、海馬との関連が検証されました。

マウスを4群に分け、以下の処置を14日間継続しました。1)および2) 対照として処置なし、3) ケルセチン50 mg/kgの投与、4) ケンフェロール50 mg/kgの投与。14日目には、2)~4)に細菌由来の神経毒を注射しました。1)には注射を行わないで、正常マウスと見なします。そして15日目に、うつ状態を調べるべく、尾懸垂試験ショ糖嗜好性試験を行いました。

尾懸垂試験における静止時間は、1)の50秒に対して2)は105秒で、うつ状態の特徴である諦めの行動が神経毒で長くなりました。3)と4)は両者とも50秒で、正常と同等でした。また、1)~4)それぞれのショ糖嗜好性試験の結果は、78%、59%、76%、76%でした。ここでも、好きな物に関心がなくなるうつ状態が2)で顕著であり、3)と4)では正常と同等でした。従って、神経毒で誘発されるうつ病が、ケルセチンとケンフェロールが同等に予防したことが分かりました。

次に、ケルセチンとケンフェロールが脳に与えた影響を知るため、海馬の状況を調べました。うつ病の患者さんの特徴として、海馬でマスト細胞が活性化していることが知られています。マスト細胞とは顆粒状をしていますが、活性化すると顆粒が崩壊して内部にある物質が外に出されます。蛇足ながら、花粉症もマスト細胞の活性化で、ヒスタミンというアレルギー誘導物質が外に出て症状が起こります。うつ病の場合は、活性化したマスト細胞から出た炎症誘導物質が脳神経を悪影響を及ぼします。そのマスト細胞の単位当たりの個数は1) 3個、2) 8個、3) 3個、4) 4個でした。また、マスト細胞から放出されたβ-トリプターゼという物質を、活性化の指標として比較しました。1)における量を1.0した相対比は2) 2.0、3) 1.2、4) 1.1でした。神経毒は海馬中のマスト細胞を増やした上、活性化も盛んになりましたが、ケルセチンとケンフェロールで抑制できました。

最後に、マウスから離れてマスト細胞のみ使用する実験で、ケルセチンとケンフェロールの挙動を調べました。マスト細胞を化学物質で活性化すると、TNF-αという炎症誘導物質を190 pg/mL放出しました。神経毒がうつ病を誘発した現象を細胞で再現したイメージです。ケルセチンとケンフェロールを10 μMの濃度で投与すると、炎症誘導物質は100 pg/mLに抑えられ、5 μMでは殆どゼロになりました。

以上の結果、ケルセチンとケンフェロールによるうつ病の予防効果は、海馬におけるマスト細胞の活性化の抑制であると結論されました。

キーワード: うつ病、ケルセチン、ケンフェロール、尾懸垂試験、ショ糖嗜好性試験、海馬、マスト細胞、炎症誘導物質