ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンによる認知機能の改善・その2: ダサチニブとの組合せ

出典: European Journal of Pharmacology 2024, 974, 176631

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0014299924003194

著者: Xiaojing Lin, Kangli Zhang, Chenyi Li, Kewei Liu, Yanping Sun, Wei Wu, Kai Liu, Xeuqing Yi, Xiaowen Wang, Zixuan Qu, Xiaohong Liu, Yao Xing, M. J. Walker, Qinglei Gong, Ruoxu Liu, Xiaoming Xu, Cheng-Hsien Lin, Gang Sun

 

概要: ダサチニブという白血病の薬があります。単独では白血病のみに有効であっても、ケルセチンと組合せるとそれ以外の様々な薬効が次々と発見され、注目を集めています。今回の研究では、熱ストレスを与えたマウスの記憶障害が、ダサチニブとケルセチンとの組合せで予防できました。

3月齢の若いマウスを30匹と、24月齢の高齢マウスを20匹をそれぞれ用意して、10匹ずつ5つのグループに分けました。1) 若いマウス、薬物投与と熱ストレスともになし、2) 若いマウス、薬物投与なし、熱ストレスあり、3) 若いマウス、薬物投与と熱ストレスともにあり、4) 高齢マウス、薬物投与なし、熱ストレスあり、5) 高齢マウス、薬物投与と熱ストレスともにあり。3)と5)を対象に、ダサチニブ5 mg/kgとケルセチン50 mg/kgとの組合せを3日連続して投与し、2週間の間隔を置いて又3日連続して投与することを5回繰り返しました。投与期間が終了した後2)~5)を対象に、気温38℃・湿度50%の場所に1日2時間晒すことを2週間継続して、熱ストレスを与えました。その後、2種類の認知機能のテストを行いました。

初めて見る新しい物に興味を示すマウスの習性を利用する新奇探索試験を行いました。マウスの好奇心ゆえ、「新規」ではなく「新奇」と表記します。まず2種類の物体を飼育箱に入れ、3分間マウスを自由に行動させます。次に片方の物体を別の物体と置換えて、3分間の行動を観察します。記憶が正常であれば、以前からあった物体と新しい物体とが識別できますので、習性に従って新しい物体に近づく時間が長くなります。正常と見なされる1)は、物体に寄った総時間の60%が新しい物体でした。2)では48%に落ちて熱ストレスによる記憶障害が示唆されましたが、3)は60%でダサチニブとケルセチンによる予防効果を示しました。4)は36%で高齢では熱ストレスによる認知障害が若いマウスと比べて深刻であることが分かりましたが、5)は58%で高齢マウスでも予防効果を認めました。

次に、受動回避試験という別の視点から、認知障害を評価しました。同じ大きさの箱を2個用意し、扉で仕切ってつなぎます。片方は照明し、もう片方は暗くします。暗い箱の底には電線が張り巡らしてあり、マウスが入ると、足に電気ショックが与えられます。まずラットを明るい箱にマウスを入れ、暗い箱に入ると、床に電流が流れて3秒間の電気ショックを与えます。24時間後に、マウスを明るい箱に入れ、暗い箱に入ろうとするまでの潜伏時間を測定します。マウスには暗い場所を好む習性がありますが、24時間前に暗い箱で痛い思いをした記憶があれば、明るい箱に留まる潜伏時間が長くなります。1)の潜伏時間は105秒間、すなわち、明るい箱に入った105秒後に初めて、暗い箱へ移ろうとしました。2)の潜伏時間は83秒に低下して痛い記憶より習性が優先しましたが、3)では1)と同様の105秒を示し認知機能に変化はありません。4)は45秒と極端に低下して、高齢による深刻度が示されましたが、5)は100秒でここでも認知機能は維持されました。

以上、ダサチニブとケルセチンとの組合せは、熱ストレスによる認知機能の低下を予防しました。

キーワード: ダサチニブ、ケルセチン、熱ストレス、認知機能、新奇探索試験、受動回避試験