ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンによる認知機能の改善・その1: 糖尿病に伴う認知障害

出典: PLoS ONE 2024, 19, e0301355

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0301355

著者: Al-Sayeda Al-Sayed Newairy, Fatma Ahmad Hamaad, Mayssaa Moharm Wahby, Mamdooh Ghoneum, Heba Mohamed Abdou

 

概要: 糖尿病には、しばしば認知障害が伴います。糖尿病で血糖値が上昇すると、高濃度の糖が脳の神経を傷つけ、認知機能が低下するためです。実際、糖尿病にかかるとアルツハイマー病の発症率が、普通の人の1.5倍になると言われています。今回の研究では、ケルセチンが糖尿病ラットの認知障害を大幅に改善しました。

膵臓で作られるインスリンが働かなくなり、血糖値が上がる状態が糖尿病です。そこで、ラットに膵臓毒を飲ませて、インスリンを作りにくくした糖尿病のラットを人工的に作りました。血糖値が250 mg/dL以上で、尿中に糖が検出されたことの2点を確認して、糖尿病と判断しました。10匹の糖尿病ラットを2グループに分け、片方にはケルセチン50 mg/kgを投与し、もう片方の5匹には薬物を何も投与しませんでした。これとは別に、糖尿病でない正常なラットも比較のために5匹用意しました。用いたケルセチンは、キトサンという甲殻類の殻に含まれる糖類で包んだ微小なカプセルとして、体内吸収を高めました。

投与期間の35日間を経た後、モリスの水迷路という実験を行い、3グループ間の空間的な記憶と学習能力を比較しました。1カ所だけ浅い場所(水深2 cm、他の場所は水深30 cm)があるプールにて、マウスを泳がせる実験です。プールの水は濁っており、浅瀬の位置が見えず、周囲の景色から判断するしかありません。ラットには5日間の学習をさせ、浅瀬にたどり着いたら30秒間置いて周囲の景色を記憶させました。6日目を本試験に設定して浅瀬を取り去り、元あった場所に到達するまでの時間を図りました。景色の記憶が不足していれば到達時間が余分にかかり、記憶障害の程度を示しています。同じ試験を4回繰り返した結果、正常ラットは43, 31, 18, 10秒を記録しました。ケルセチン非投与群は80, 95, 110, 105秒を要し、糖尿病による記憶障害が示されました。また、正常ラットに見られた回数を重ねる度に到達時間が短くなる傾向が見られず、学習能力の欠如も分かりました。ところがケルセチン群は62, 44, 36, 25秒の到達時間で、非投与群と比べて各々の数値が優れているだけでなく、回数が増すにつれ早くなりました。従って、ケルセチンは糖尿病で悪化した空間的な記憶を改善すると同時に、失われた学習能力も回復しました。次に、ラットの脳にあるアセチルコリンという神経伝達物質を調べました。文字通りこの物質が神経内を伝達して、脳が活動しますので、不足すれば認知機能は低下します。正常ラットが9.46 pmol/mg、ケルセチン非投与群が4.40 pmol/mg、ケルセチン非投与群が8.53 pmol/mgでした。ケルセチンによる認知障害の改善の本質は、脳中の神経伝達物質の量を正常化した所にありました。

ケルセチンにはまた、糖尿病の治療効果もありました。糖尿病の指標である血糖値を比較したところ、正常ラット: 96.0 mg/dL、ケルセチン非投与群: 339.3 mg/dL、ケルセチン非投与群: 151.0 mg/dLでした。そもそも認知障害の原因が糖尿病でしたので、ケルセチンによる糖尿病の改善は、ある意味当然と言えましょう。

キーワード: ケルセチン、糖尿病、認知機能、モリスの水迷路、空間記憶、学習能力、神経伝達物質